導入は海外が先行――モスクワのBBサービスを支える高速PLC:「エンタープライズPLC」のススメ(3/3 ページ)
国内では始まったばかりのビル内PLCだが、海外での導入事例は珍しくない。ここではビル、工場内などの企業向け高速PLCにフォーカスして、ロシアでの実用例を紹介する。
ロシアでの適用事例
ロシアでは、局舎との距離の問題、電話線の品質の問題などによってADSLが普及するには至っておらず、ブロードバンド化は進んでいない。そこで、PLCシステムインテグレーターのElectroCom社が現地通信会社と組み、2005年3月にブロードバンドサービスとしてPLCサービスを始めた。これは、200Mbps PLCモデムを用いた、世界で初めての商用サービスである。
ロシアの場合、ビルの屋上に平行2線の有線ラジオ網が張り巡らされている。これは1930年代に全ロシアに敷設されたものだが、現在はほとんど使用されていない。ビル間通信はPLCモデムを用いた有線ラジオ線上で行い、またビル内は電力線を用いた通常のPLC通信を行うことによって、ブロードバンドサービスを可能にした。
図5に示すように、ビル屋上に設置された親機(HE:ヘッドエンド)からの信号は有線ラジオ線に伝送され、各ビルの最上階に設置された中継機(REP:リピータ)で中継されてビル内の電力線に注入される。ビル内の電力線は各部屋までつながっており、それぞれのコンセントから子機(CPE:Customer Premise Equipment)にPLC信号が伝送される。
また、子機からの信号はこの反対の経路で親機に伝送され、上位のネットワークに到達する。各CPEからの信号は電力線を通してほかの部屋にも漏れる恐れがあるため、VLAN(仮想LAN)を設定して居住者の子機間が通信してしまわないよう工夫している。
本システムでは各戸に1Mbpsのブロードバンドサービスを実現した。また、インターネットとVoIP(Voice over IP)のサービスをモスクワで提供しており、サービスは周辺都市にも展開されている。
PLCはビル、工場などの企業向け用途のほかにも、通信ケーブル敷設工事の伴わない簡易なネットワーク構築方法としてさまざまな分野への応用が期待されており、海外では数年前から実用化が始まっている。
しかし国内では、2006年10月の省令改正まで漏えい電界低減のための実験でしか利用が認められていなかったため、PLCを用いてどのようなサービスが可能か、十分に検証されているとはいえない。とにかく、これらの分野で早急に実績を積み重ねて、技術的に問題が生じないこと、LANケーブル敷設の代替手段としてコストメリットがあることを実証した上で、国内においてもPLCでさまざまなアプリケーションが広がることを期待したい。
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