中国、韓国が欲しがる「見えない資産」――ニッポンのマネジメント力:グローバルで戦うために(2/2 ページ)
バブル崩壊以降、日本企業の中から自らの「マネジメント力」を誇る声はあまり聞かなくなった。しかし、モノづくりを中心として日本企業のマネジメント力に注目する国は多い。高い評価に安住することなく、蓄積したノウハウを体系付け、ITによって誰もが活用できる仕組みに変えていく必要がある。特に高いレベルのノウハウを持つ中小企業のIT化にはITコーディネータが大きな役割を果たす。
先端技術よりマネジメント力
例えばITCに大きな関心を示す中国、韓国の狙いはどこにあるのだろう。
「彼らが欲しいのは、日本の企業力、経営力、製造力の膨大なノウハウです。どうすれば日本企業のような品質の高い製品を安定して作ることができるのか、に関心があるのです」と関氏は話す。
「先端技術は他の国でも持っていて、日本を飛び越えて直接欧米から買えばいいと。IT関連の技術もそうですね。しかしモノづくりの分野などでのマネジメント力は日本がトップだと考えていると思います」(関氏)
日本のアドバンテージはマネジメント力だという。しかし、年々、従来のマネジメントでは立ち行かないと自覚し、どうにか自己変革をしたいというのが、日本企業の現状ではないだろうか。これに対して関氏は次のように話す。
「だからこそ、急いでマネジメント変革する必要がある。これまで培ったマネジメントのノウハウは個々の優秀なスタッフの中に蓄積されている場合が多い。ITを活用してこうしたノウハウを誰もが活用でき、新しいノウハウを作り出すサイクルを構築しなくてはなりません」
こうした時代の流れは、当事者が意識する、しないにかかわらず日本企業の動きを見ても分かる。「見える化」への取り組みなどがいい例だ。
IT化で必要な視点とは
マネジメント変革を急ぐ必要があるのは、大手企業だけではない。むしろ国内全企業の99%以上を占め、総数で400万社を超える中小企業に変革が求められるケースは多い。
日本が築きあげてきた、マネジメントのノウハウは中小企業の中にこそ豊富に蓄積されていると見るべきなのかもしれない。アジア各国が本当に欲しいのは、中小企業のマネジメント力ともいえるだろう。
「IT化で経営の質を上げることは、これからの企業にとって生命線。例えばCS向上など、直接かかわってくる。結局はどんな企業活動であれ、顧客を満足させなければ事業は発展しない。そのためには提供する製品やサービスの品質や価格がフィットしてなくてはいけないし、顧客の気づいていない付加価値をつけるとか、欠品率が低いとか、質を上げるというところをしっかりとやる必要がある。IT化あるいは情報システムの開発が、単に道具としてだけでなく、そういう視点に結びついているかどうかが重要なのです。そうでなくては国際競争力なんてつけることはできない」と関氏は語る。
長所もいずれは…
グローバルな市場で激しい競争をするというのも、大企業だけの専売特許ではない。中小企業も取引先からの要請だけでなく、独自の戦略からグローバル市場へ舵をとるケースも増えている。こうした流れの中で、マネジメントのノウハウが属人化したままというのは、エンジンを積まないで船出をするようなものだろう。
「国際的なマーケットで自社の製品やサービスをどうやって売るのですか、いちいち各地に支社出しますか、ということなんです。今はそうじゃないでしょう。ネットワークを使わないとだめだし、日本はそうしないと勝てない。幸い、日本企業には経営マネジメントの力があるんだから、マネジメントに直結した、高い付加価値をもたらすIT化をいまやらないとせっかくの長所を放棄することになる。その危機感を持ってもらいたい」と関氏は話す。
一般論と断った上で、関氏はこれまでの日本企業のIT導入について次のように話す。
「失敗事例となるのは、コンサルタントは上流のほうだけやって、下流はSEに丸投げ、下流は下流で適当に分析して概要設計、詳細設計して、経営戦略までさかのぼるなんてことはないというパターンです。口ではやるといいながら、ごまかしが多いと結局は失敗する。もうそんなごまかしは通用しない。言葉通りにきちんとやるかどうかが問題です」
上流の経営戦略策定から、下流のシステム開発、運用まで、分断のないプロジェクト運営が大切だ。この際、CIOに相当するキーマンがいない企業では、ITCが力を発揮する、ということなのである。
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