「ダメ上司」は真実を映し出す鏡:企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第27回(2/2 ページ)
4月も後半、新しい上司とのつきあいもそろそろワンクール目が終了といったところだろうか。周囲のうわさなどに惑わされず、自分の目でしっかりと上司の人柄を見極めたいところ。「ダメ上司」をキーワードに人間観察のポイントを探る。
意外に多い「重箱の隅型」
「ヒラメ型」は常に上司の顔色を窺い、上司の考えや指示がすべてだ。自分の考えがないから、言動がコロコロ変わる。部下の面倒見も悪く、部下の心の痛みなど無関心だ。C大手企業のD事業部長は、トップからの指示や報告については異常な関心を示すが、それ以外は上の空だ。一昨年から1年間、C社はERPパッケージソフトを導入して「経営の見える化とスピードアップ」を目指して全社的にプロジェクトを展開した。プロジェクト発足当初はトップの方針が出されたり役員会で話題になったりしたため、Dはプロジェクトの進度チェックをきめ細かく行った。しかし時間の経過とともにプロジェクトがトップや役員会の話題にならなくなると、Dは途端にプロジェクトへの関心を失った。このタイプは上から言ってもらうしかないが、上に頼むのも容易でない。「トップの方針に則り」を枕詞にして攻めるか、こちらで勝手に進めてシステム構築そのものにやり甲斐を見出すしかない。
「ゴーイングマイウエイ型」は、独善的で部下への思いやりや気配りがなく、部下を私兵化する。ITでも何でも、こちらが勝手に進めても干渉しないので、どんどん進めたらよい。その代わり報告だけはこまめにするべきだし、最後は責任を取る覚悟が必要だ。
「昼行灯型」は、問題意識もなくリーダーシップもとれない、現状破壊などまるでできないタイプ。大体はお人好しで、ある会社の本社から工場に転勤してきたE課長はその典型だった。いつもにこにこ、一切の指示もしなければ決定もしない。その穴埋めでもするかのように、行事があると大枚の寄付をするのが常だった。代わって力のある係長がリーダーシップを取った。教育しろとか諫めろという説もあるが、時間の無駄だ。こちらの思うようにリーダーシップを取ってドンドン進めるのがよい。ただし、報告は忘れずにするべきだ。
「重箱の隅型」は、意外に多い。例えばメーカーでは技術屋が管理職につくせいか、重箱の隅を突くように細かいことにこだわるタイプが少なくない。先見性や大局観に乏しい。ネットワークシステム構築のうかがいに対して、サーバ容量や伝送速度、パソコンの詳細なスペック、はてはパソコン重量まで微細にチェックされたが、システム構築の基本的考え方や経営方針との関連などについて一切問われなかった苦い経験がある。このタイプには、鍛えられていると考えて辛抱するしかない。でないと、些細なことで計画を没にさせられる。
ぶれない強さが武器
一方、「ダメ上司」に対する個々の対応もさることながら、共通する基本的対応を考えておく必要がある。まず自分の考え方を明確に持ってアイデンティティを確立し、基本はぶれないようにしなければならない。そのためには自己を磨く必要がある。
次に自分の上司がどういう思考タイプか、見分けておくことは無駄ではない。
米GEのネッド・ハーマンが、ノーベル賞受賞者の大脳生理学理論を基に構築した「ハーマンモデル」がある。人間の思考を、脳の4カ所からパターン分けする。左大脳は論理的、右大脳は直感的、辺縁系左は管理的、辺縁系右は感情的に、それぞれ思考する。どこが優位脳であるかで、その人のタイプが決まるという説である。
その上で「上司を乗り越える」のである。積極的対応として(1)上司をコントロールする、(2)試練として捉えて実力をつける機会にする。消極的対応として(3)反面教師にする、(4)上司と思わず、顧客や市場を、あるいは仕事そのものを相手にする、(5)敵だけにはしない(敵にして得なことは一切ない。このことを筆者は経験上痛感している)、(6)できることなら相手に合わせる、そして腹心となる(これは非常に難しいが、達観して相手に合わせて腹心になれば、自分のアイデンティティを通せるチャンスもあろう)。
これらのアドバイスは、「ダメ部下」ではない人、「ダメ部下」にならないよう日々、謙虚に努力している人にのみ有効だということも付け加えておきたい。ここまで紹介したタイプの性質はほとんどの人が多かれ少なかれ持っている特質だ。上司の欠点と思われる部分を冷静に受け止め、いたずらに批判に終始するのではなく、自分自身のダメぶりをチェックすることも大切。「ダメ上司」は真実を映し出す鏡、ともいえるのだ。
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