あなたの「完璧主義」は良性? 悪性?:企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第29回(2/2 ページ)
仕事へのこだわりは重要だ。細部にも目を光らせ完璧な仕事を目指してこそプロというもの。しかし、その完璧主義を勝手なタイミングで押し付けるのは…。
パソコン愛好家社長登場 妥協案もひねりつぶす
しかし、報告会で問題が起きた。パソコン愛好家のB社長は例によって、いきなりシステムについて細かな部分を突き始めた。PTは順序立てて、細部を詰めていく作業を計画していた。ひと口に細部といっても、さまざまな開発段階で種類が違ってくる。したがって、システムの詳細な部分やOS、外部への情報漏えいに対する防衛策などについての質問はまだしも、導入するパソコンやサーバーの詳細なスペック、データの伝送容量や速度などの質問に至っては、PT関係者も席上で即答できなかった。しどろもどろする関係者に、Bは「そんな不勉強な状態で導入することは、認めるわけにいかない」と宣言した。
細部の詰め方にはいろいろな考え方がある。PT関係者の考え方が絶対ではないが、具体的な仕事の進め方において、トップの考え方を絶対視するのもおかしい。部下の考えを無視した押し付け型の完璧主義は、どう見ても「悪性」の完璧主義と言わざるを得ない。
モデルシステムの導入費用についても、「何故A社が持たなければならないのか。C社のメリットになるのだから全額C社負担とすべきだ」と言い放った。軌道に乗ったらC社にも半額負担させる、あるいは最初から折半負担にしたいという関係者の妥協案は全く受け入れられなかった。結局A社のシステムは、挫折した。
行きすぎた完璧主義が引き起こす「時間のムダ」
電気機器のD販社でCRM導入を計画したとき、ユーザーの意見を100%取り入れることがE社長の方針だった。そのため社内にユーザーの意見は絶対であるという雰囲気が流れ、ローカルで例外的な要求がどんどん寄せられた。ユーザー要求といえども選択されなければならないのに、Eの首に鈴をつける者はなく、要件定義はいつまでも迷走し続けた。「見ていられない。俺がまとめる」と乗り出したEが、関係者を集めて数回の打ち合わせでシステム概要をまとめた。完成したシステムは経営者向けで、営業では使い物にならなかった。
大企業F電機メーカーのG事業部門長は、社長主催の予算会議、経営会議、事業計画会議など年数回開催される主要会議が近くなると、3週間ほど事業部長室に閉じこもって「勉強」を始める。関連する部下が次々と部屋に呼び込まれる。見出しをつけた手持ち資料は抱えきれないほどになる。スタッフに会議資料を作らせるその前からの期間も含めると、Gは年間の半分以上を会議準備で費やす。その割には、会議で社長や役員の質問を浴びると、Gは準備した膨大な手持ち資料の回答部分を探すのに時間がかかって、まともに答えられないという噂が流れた。問題は、人間は自分のやっていることを他にも求めるということだ。G主催の会議は、部下にも自分がしているのと同じような準備を求める。
社内のモラルを殺す完璧主義
B、E、Gのようなタイプのトップは、稀ではない。筆者の経験では、特に技術系出身のトップに多く見られる傾向と言えそうだ。それが、経営の仕方を充分考えた結果の完璧主義なのか、単に些事にこだわる性格なのか、ケースバイケースだが、いずれにしろ彼らはしばしば大局を見失い、経営のスピードを落とし、社内のモラルを殺す。
トップは、大局を見失ってはならない。些事にこだわった時点で、トップは失格だ。周囲の誰も注意をしない。仮に注意をしたとしても、その途端トップは自尊心を傷つけられたと思い、部下を詳細を把握しないとなじるだけだ。トップ自ら気づくしか、道はない。
良き聞き手になれば決断は自然と早まる
成功したトップの言葉には、経験からにじみ出た千金の重みのある教訓が潜む。「外資系トップの仕事力」(ISSコンサルティング編 ダイヤモンド社)という本をたまたま読んでいたら、ハッとするような言葉があった。
「そもそも100%正しいことなんてありえないんです」「70点でいいんです。ある程度勝てると思ったら、結論を出して一歩踏み出す。もしその通りに行けばそのまま行けばいいし、そうでなければ方向転換をすればいい」(日本エマソン 中山信義元社長)
「私は慎重に考えてから決めるタイプでした。いろんな条件をどう全部クリアして結論を導き出すか。でも、全部考えていると結論なんか出ないんですよ。では向こう(米国)の連中はどうするのかというと、条件をカットしてしまうわけです。要するに、そもそも一番大事な条件や情報を選択する力があるんです。だから結論が出る。しかも速い」(日本GE 藤森義明会長)
80年代後半、筆者は米アップル社CEOジョン・スカーリーの名刺を受け取って感銘を受けた。名刺の肩書きは「Good listener」(良き聞き手)とあり、「CEO」の類はどこにも見当たらなかった。彼のその後の活動については批判されるところはあるが、示唆に富む。彼はスタッフの発言にじっと耳を傾けて聞き入り、ポイントを突いた質問をすると、決断が速かった。
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