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第5回 ハッカー環境問題まつもとゆきひろのハッカーズライフ(2/2 ページ)

自分の周囲の環境を積極的に改変してきた人類ですが、「電脳空間」の環境を積極的に改変していく能力は、まだ誰もが持っているとは言いがたいようです。あらゆることを自分の手で改造しないと気が済まないハッカーは、進化の最前線どころか時代に取り残されたオールドタイプなのでしょうか。

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ハッカーはオールドタイプ?

環境を改善して省力化を実現するためには、スクリプト言語も有効です。データから数値を抽出して集計するために、紙に印刷してから電卓をたたくなどという苦行を行う代わりに、小さなスクリプトを書いて計算させた方が、よっぽど生産的です。例え電卓をたたくよりプログラミングに時間がかかったとしても、それはそれでいいんです。

 単純作業を繰り返すよりは、プログラミングという生産的な作業を行った方が100倍幸福です。Ruby、Python、Perlなどのスクリプト言語は、まさにそのような「ハッカーの道具」として電脳環境の改善を目的として誕生したのです。

 先日、電気工事のミスによってオフィスのサーバ室が停電になってしまい、UPSをつけていなかったマシンがすべて止まってしまいました。わたしのメールボックスが置いてあるマシンもこれに巻き込まれ、ネットワーク経由でメールが取り出せなくなったのです。メールボックスの一部にゴミが交ざったため、POPサーバが誤動作するようになったようで、ユーザー認証に失敗してしまいます。なぜ、メールボックスが壊れたくらいでそんな事態になるのか理解不能ですが、このままではメールの読み書きができず、わたしにとっては死活問題です。しかしハッカーたるもの、このようなときも慌てず騒がず*、壊れたメールボックスを手元にコピーして、簡単なRubyスクリプトで切り出し、メールクライアントに読み込みました。与えられた環境でしか生きられなければ、このような事態には手も足もでなかったことでしょう。

 ハッカーはただ単にコンピュータを使うだけでなく、その背後にあるソフトウェアの仕組みを理解し、必要であればその仕組み自体を変えてしまう力を持っています。その力の源は「プログラミング」なのです。電脳環境をプログラミングすることで、与えられたソフトウェアを使うだけでは実現できない魔法のような力を発揮できる。それがハッカーのパワーなのです。

 このように見てみると、ハッカーは電脳世界の進化の最前線にいるように思えてきます。しかしよく考えてみると、現実世界でも文明が進歩するにつれて専門化が進み、ほとんどの人は自分で家を建てたりはしません。自動車を作ったりもしません。やるのはせいぜい趣味の日曜大工程度でしょうか。それと対比するならば、あらゆることを自分の手で改造しないと気が済まないハッカーは、進化の最前線どころか時代に取り残されたオールドタイプなのかもしれませんねえ。まあ、自分で何にもできないユーザー*よりは幸せですが。

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慌てず騒がず

うそである。実際にはかなり慌てたし、騒ぎもした。しかし、この対応は出張中のホテルで行われたので、慌てたり騒いだりしたのを誰にも見られなかったのは幸いだ。しかし、何で出張中のタイミングで停電が起きるかなあ。

自分で何にもできないユーザー

MITハッカーコミュニティーでは、このようなユーザーのことを「負け犬(loser)」に引っかけて「luser」と呼んでいたそうだ。ハッカーの傲慢さがうかがえる。


本記事は、オープンソースマガジン2005年8月号「まつもとゆきひろのハッカーズライフ」を再構成したものです。


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