褒める、励ますはリーダーだけの仕事か?――モチベーション向上の秘策:人心掌握の鉄則(2/2 ページ)
褒めたり、励ましたりすることは、難しい。それにしてもモチベーション向上はリーダーだけが背負いこまなくてはならないのだろうか。
質より量を重視して褒めあう習慣を定着させる
今年、六本木に日本で2店目をオープンさせて話題になったザ・リッツ・カールトンは、従業員全員に「ファーストクラス・カード」を持たせている。
ファーストクラスという言葉は、相手に最大級の賛辞を示す英語表現の一つ。セクションの壁を越えて仕事を手伝ってくれたときなど、同僚に感謝を示すときに手渡すことになっている。
渡したカードのコピーは人事セクションに回り、その内容は人事査定の参考資料の一つになる。このように褒めあう習慣を人事とリンクさせれば、褒められた社員のモチベーションはさらに高まる。
店舗用備品関連事業から経営コンサルティングまで幅広く手がける武蔵野が導入している「サンクスカード」も面白い。社員同士が感謝の気持ちを示して手渡すのはリッツ・カールトンと同じだが、「サンクスカード」は褒められた社員だけでなく、褒めた社員も評価の対象になる。褒めたことが自分の評価につながるので、積極的にカードを渡すようになるというわけだ。
褒めた/褒められた内容ではなく、渡した/もらった枚数で評価するのも「サンクスカード」の特長だ。同社の小山昇社長は、その理由をこう語る。
「コミュニケーションは質よりも量です。例えば1時間の面談を1回やるより、10分の面談を6回やったほうがコミュニケーションは深まります。褒め合うのもそれと同じで、大きなことをたまに褒めるより、小さなことをいくつも褒めたほうが社員の励みになる。だから些細なことでも褒めた回数の多い社員を評価するのは当然です」
一方、一風変わった研修で褒め合う文化を定着させているのが、スカウト業界で急成長しているレイスだ。
同社は行動指針「八つの心得」の項目の一つに「感謝・報恩」を掲げているが、それを実践するために、社員同士で手紙を書きあう「ラブレター研修」を実施。普段は口に出して言うのが恥ずかしい仲間への感謝の気持ちも、手紙に託すことで素直に伝えられるようになるのだという。
いま紹介した3社は、いずれも業績を伸ばしている。もちろん業績好調の理由はいろいろと考えられるが、社員がお互いを褒めあってモチベーションを高めていく仕組みが貢献をしているのは間違いない。
褒めたり、感謝するという行為を形式化する仕組みを作れば、感情的な問題があっても行動に移しやすい。形骸化してしまってはいけないが、ある定型にはめてしまえば、いい感情を持てない相手であっても、ある一点の事実に関しては、褒める、感謝するということは行動に移しやすい。
一点の事実。たとえ嫌いな人間であっても、その人の行為によって自分の仕事がうまくいった、ピンチから救われたということが事実としてあれば、そのことに関しては感謝の気持ち、褒めるという行為を仕組みの中で実践できる。
褒める技術を磨いて部下のやる気を引き出すのも、社員同士が褒めあう仕組みを通して部下を鼓舞するのも、マネジャーの大切な役割。ぜひ参考にして、部下のモチベーション管理に活用してみてはどうか。
「月刊アイティセレクト」2007年11月号 特集「モチベーションコントロールに役立つ 人心掌握術の鉄則」より)
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