製販一体型SEへの道【その1】:ITエンジニア進化論
システム開発に携わるSEならば、ものづくりに強いのは当たり前。だが、それだけでは、システムの売りにはつながらない。いま、IT業界で求められているのは、製販一体型のSEである。そのためには、どのようなスキルを身につければよいのだろうか。
分業化の進展による弊害
顧客の求めるシステムに合わせて要素技術ごとに専門のSEを担当させるのが、従来からのやり方だ。これは、メール環境を構築するとか、Webサイトを立ち上げるなど、顧客のニーズがはっきりしていれば通用するたぐいのものである。しかし、最近では、顧客が求めるシステムは高度化し、かつ、技術革新のスピードも早い。このため、顧客のニーズがはじめから明確ではないケースが増えているのだ。
従来の方法のままでは、顧客のあいまいなニーズに対して、要素分解し人材を割り当てるしかない。その結果、ニーズ全体に対して合わないシステムを納品することにつながりやすい。これは、分業化だけではなくIT業界の悪しき習慣である、箱売りや人出しビジネスの弊害ともいえよう。このような状況に対し、ニーズとシーズの両面で全体最適を図る人材として、ITアーキテクトが注目を浴びている。
従来の方法は、安定した環境や技術であれば成立する。しかしそれでは、現在の状況にはマッチせず、真の意味で顧客のビジネスを支援していることにはならない。IT業界でも生き残っていけないはずだ。
製販一体型SEの必要性
製造業で、「製販一体」という言葉が使われ始めて久しい。これは、従来、作ることしか考えてこなかったことを反省し、マーケティング能力を高めていこうという考え方である。高度成長期には、プロダクトアウトの発想で作れば売れる時代が続いていた。しかし、世の中にモノがあふれ、消費者のニーズが多様化した結果、大量生産で勝負する企業は生き残れなくなった。そこで、マーケットインの発想が生まれたのである。最近では、むしろ個客に対応していこうとするカスタマーインの発想が主流であろう。
IT業界のビジネスは、ハードウェア製造・販売やソフトウェア製造・販売、システムインテグレーション、アウトソーシングなど多岐におよぶ。このうち、業界売り上げの約半分を占めるのが、システムインテグレーションである。システムインテグレーションでは、パッケージも適用するが、基本的には個客のニーズに合わせてハンドメイドする世界である。そのため、カスタマーインの発想が重要となる。
製販一体型SEとは、カスタマーインの姿勢で顧客に接し、製造だけではなく営業もできるSEである。次回から、製販一体型SEになるための重要スキルとして、提案力・プレゼン・交渉力などを取り上げていきたい。
著者プロフィール:克元亮
All About『ITプロフェッショナルのスキル』ガイド。SEのキャリア形成やスキルアップをテーマに、書籍やウェブ記事を企画・執筆。近著に『SEの文章術』(技術評論社)、『ITアーキテクト×コンサルタント 未来を築くキャリアパスの歩き方』(ソフトバンククリエイティブ)がある。日々の執筆や読書を、ブログ『克元亮の執筆日記』でつづっている。
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