人と人のつながりを変えたSNSが目指す先:日本のインターネット企業 変革の旗手たち
日本においてSNSの代名詞となりつつあるコミュニティーWebサイト「mixi」は、インターネット上でリアルな人間関係を構築できる可能性を見いだし、人と人とのコミュニケーションの在り方に変化をもたらした。mixiの成功の理由はどこにあり、これからどのような価値を生み出すのか。
SNSを通じて生まれるさまざまなやり取りは、人々の新たなコミュニケーション形式をもたらした。SNS成功の秘訣はどこにあり、これからどのような価値を提供していくのか。日本のSNSにおける代表的な企業で、コミュニティーWebサイト「mixi」を運営するミクシィの笠原社長に話を聞いた。
人と人の関係をいかに継続させるか
ITmedia 大学に入るまでは、インターネット関連にあまり興味がなかったということですが
笠原 大学3年の時の経営戦略のゼミで、マイクロソフト対アップル、インテル対AMD、インターネットエクスプローラー対ネットスケープといった、当時のIT業界の競争をテーマとしたケーススタディに取り組む中で、インターネットの世界に興味を持ちました。
その後IT関連の新聞や書籍を数多く読み、PCに触れる機会も増えました。その中で当時のインターネット産業に1970〜1980年代のPC産業と同じような大きな変化が起こるのではないかと感じました。1996年〜1998年には、確実な収益性などは保障されていないながらも、インターネットビジネスが次々と生まれました。新しいものを生み出そうとする動きが芽生えた時期です。
ITmedia そういった中で笠原社長はどのようにSNSと出会ったのですか
笠原 IT系の求人サイト「Find Job !」を1997年に立ち上げ、1999年に法人化しました。2003年に会社のさらなる成長を目指し、これまでにない新たなサービスを模索していました。その頃留学生のエンジニアから、海外ではSNSというおもしろいサービスが流行していると聞いたのがきっかけです。
米国のSNSをいくつか試して、“すぐに事業化しよう”と思い立ちました。人と人の間にあるさまざまな関係や、自分から広がる人同士のつながりを閲覧できるサービスに初めて出会い、インターネット上でリアルな人間関係を作ることができる点に可能性を感じたからです。
ただ米国のサービスは、人と人をつなぐことだけに重点が置かれている気がしました。確かにそれはそれでおもしろいですが、肝心なのはつながりができた後で、いかにその関係を継続・拡張させるかにあると感じていました。
そこで、ユーザー同士のつながりだけでなく、新たなコミュニケーションの在り方を生み出すために、日記やコミュニティー、足あとなどのコミュニケーション機能を考えだしました。mixi成長の原点はこれらの機能にあります。
モバイルサービスの普及が加速
ITmedia Webを介した新たなコミュニケーション形式を提供したmixiは、その後どのような成長を遂げたのでしょうか。
笠原 SNSの普及に伴うアクセス数が急増し、システムが不安定になったことがありましたが、負荷分散の技術開発により2005年〜6年にはほぼ解決しました。それからは大きなトラブルもなく安定したサービスを提供できています。
急成長しているのはmixiの携帯電話サービスであるmixiモバイルです。携帯電話は、日記へのコメントやコミュニティーへの書き込みといったその都度更新されるmixiのコンテンツにリアルタイムでアクセスできるため、SNS自体との親和性が高いツールといえます。携帯電話の使い勝手の向上や定額制の導入、mixiモバイルのサービスや機能強化などが成長の要因でしょう。アクセス数は現在、モバイルの方がやや上回っています。
今後はmixiモバイルにおけるユーザーエクスペリエンスの充実を図り、滞在時間とPV(ページビュー)数の増加を見込んでいます。またGPSといった携帯電話の機能と連動したサービスの提供も考えています。
ITmedia 今後mixiが見せる新たな取り組みはありますか
笠原 自社のAPI をmixi の中にも外にも提供していきます。社内でも引き続き独自のアプリケーションを作り続けますが、開発者やほかの企業によるアプリケーション作成を支援していきます。
ITmedia 御社のユニークな制度に、エンジニアが主力事業以外の仕事に1週間の1日を当てる「One Day Free」制度があります。こういった制度に力を入れていることから、ミクシィはこれからもSNSとその開発にこだわり続けるのでしょうか
笠原 例えば、ユーザーが好きなアーティストと似た音楽や楽曲を紹介するmixiミュージックの機能は、One Day Freeから生まれました。今後も新たなサービスが誕生すると思っています。新サービスばかりに注目が集まるのですが、弊社にはデータマイニングや負荷分散などの基礎技術を研究しているエンジニアもいます。なるべくエンジニアのやりたいことができる環境を整えることを心掛け、mixiが新たなアプリケーションやサービス、Webサイトを作る土台であり続けることを常に考えています。
ユーザー目線で発想する大切さ
ITmedia やりたいことができる環境というものは積極性を要します。ミクシィが求める人材に積極性は必須ですか
笠原 求める人材像ですが、新卒中途を問わず人柄と経験の両方から判断します。人柄の面では、コミュニケーションが取りやすく、仕事に対して前向きでのめり込むことができるかどうかを見ています。ミクシィで一緒に働くイメージができるかが重要です。
また常に問題意識を持ち、自分がやりたいと思ったことはやり遂げる実行力も必要です。さらに大事なのは “ユーザー目線”です。コミュニティーサービスでは、ユーザーの気持ちをつかむことが大事なので、ユーザーのニーズを掘り起こす発想力という点も重要でしょう。
職種によりケースバイケースですが、自分の企画を通じて事業を興し、世の中を変えていきたいといったマインドを持っている社員が多いのではないでしょうか。
ITmedia 日々進化するインターネット業界で働きたいと考えている人々にメッセージをお願いします
笠原 インターネットはここ数十年もしくは数百年というスパンで考えても、非常に大きな技術革新です。IT業界は日々変化し、当然、その動きに応じたビジネスが毎日のように誕生しています。インターネット業界は、このような変化の節目に立っています。非常におもしろくてチャレンジングな業界なので、大きく成長できるのではないでしょうか。
ITmedia 笠原社長はオフをどのように過ごしていますか
笠原 ほかのインターネットサービスを自分で試したり、スポーツやゲームをしています。ですが頭の片隅には世の中でどのようなニーズやビジネスチャンスがあるのかを考えていることが多いです。新しいものに触れる機会を持つように心掛け、技術系のイベントに足を運ぶこともあります。
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