「内部統制報告制度に関する11の誤解」の使える部分を探してみた:ITIL Managerの視点から(4/4 ページ)
3月11日に金融庁が発表した「内部統制報告制度に関する11の誤解」の読み解き連載も、今回が最終回。内部統制への対応状況を見つめ直す上で、役立つ部分を探してみよう。
10.適用日までに準備を完了する必要があるのか
[誤解] 平成20年4月から内部統制報告制度が適用されるので、もう間に合わない。
[実際] 内部統制はプロセスであり、問題点があれば、その都度、是正していくことが重要。
(具体例)
・報告書の提出期限
最も早く報告書を提出する3月決算の会社でも、平成21年3月末の状況を平成21年6月末までに報告。
・問題点(重要な欠陥)への対応
期末日までに問題点が是正されていれば内部統制は有効。そうでなくても、期末日後の是正措置や是正に向けての方針等を報告書に記載することが可能。
……この[誤解]と[実際]はどう見ても対応していない。「間に合わない」会社は、明らかに間に合わないのだ。「平成21年3月末の状況」を正確に報告するためには、会計年度が始まる平成20年4月の段階である程度は内部統制が可能な状態、少なくとも組織内の各種データが必要に応じて参照できるようになっており、それらが正確であると保証できる状態になっている必要がある。そうなっていない企業は、どう考えても「平成21年3月末」に潔白な情報を提出することは不可能なのだ。
「内部統制はプロセスであり、問題点があれば、その都度、是正していくことが重要」という言葉自体は正しい。ただ、いまさらこのようなフォローをするくらいなら、平成20年度は「内部統制トライアル年」と位置付け、重要な欠陥があっても罰則を適用しないと決めたほうが良かったのではないか。1度でも(罰則の適用なしに)PDCAサイクルを回してみれば、企業も体制を整えやすかったと思うのだが。
11.期末のシステム変更等は延期が必要か
[誤解] 内部統制の評価のために、期末に予定していたシステム変更や合併等の再編を延期しなければならない。
[実際] 予定を変更せず、そのまま実施しても、内部統制は有効。
(具体例)
・期間内に十分な評価手続を実施できないとしても、経営者は「やむを得ない事情」によるものとし、評価範囲から除外して、内部統制の評価が可能。
・この場合、監査人は「無限定適正意見」を表明可能。
理屈の上ではその通り。しかし、内部統制を導入しなければならない企業としては「せっかくだから、内部統制への対応に合わせて、システムや会社組織も変更しよう」と判断するのが自然だ。また、今年は「やむを得ない事情」ということで評価をすり抜けたとしても、来年はそうはいかない。とはいえ、内部統制への対応は組織やプロセスにメスを入れられる良い機会でもある。システム変更や合併の機会とバッティングした企業は、むしろタイミングが良かったと、前向きに受け止めるべきか……。
全3回に渡り、「内部統制報告制度に関する11の誤解」(リンク先はpdfファイル)というコメントを筆者なりに読み解いてみた。各[誤解]と[実際]において述べられていることには、理屈の上では正しいこともある。しかしその理屈を、現実の企業活動に当てはめられるかというと、そうはいかないことも多い。正直なところ、金融庁による今回のコメントはあまり役に立たないなあ、というのが筆者の感想である。
とはいえ、経営者がもっと自社の内部統制に対して興味を持つ必要がある、ということは事実である。「カネも時間もないのに、内部統制なんて、やってられるか!」というわけにはいかないのだ。そういった意味では、「内部統制報告制度に関する11の誤解」にも、「内部統制について見つめ直すきっかけをもたらす」という効果は認められるだろう。
2007年に世間を騒がせた「偽装問題」は、今にして思えば「出るべくして出た」問題だと思う。昨年は耐震とか食材とか、生活や生命に直接関わる分かりやすい事柄が取りざたされたが、社会的信用や法令順守という内省的な面で社会的信用を失わないよう、内部統制について考えてみてほしい。
※「内部統制報告制度に関する11の誤解」の各項目については、金融庁発表資料における用字用語および表現を採用しています。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
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