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エンジニアの楽園を目指す新生ミラクル

ミラクル・リナックスは経営陣を刷新、新たにモバイルインターネットデバイス(MID)の市場に打って出る。開発者に対する尊敬の念も明確な形で示すなど、若き経営陣への期待は大きい。

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 ミラクル・リナックスは7月1日付けで経営陣を刷新した。これまで代表取締役社長を務めてきた佐藤武氏が取締役会長に就任。営業や戦略推進などの責任者を務めていた児玉崇氏が新たに代表取締役社長最高経営責任者に就任する。


この夏に中国で発売される予定の端末を手にする児玉氏。当然、インストールされているOSはAsianux Mobile Midinux Edition

 「Linux市場の現状を見ると、数年前まで右肩上がりだった業務サーバLinux市場の成長が鈍化しつつある一方で通信、携帯、組み込み系アプライアンスなどの市場が急速に立ち上がり始めている」と佐藤氏。そうした新たな市場に乗り出すに当たり、若い経営陣にバトンタッチすることで、社内の活性化や意思決定の迅速化を図り、Linux市場でのさらなる飛躍を目指す。今後、当社のイメージは大きく変わることになるだろう」と述べた。

 現在40歳の児玉氏。2007年12月に発表されたAsianux Corporationの取締役副社長も兼務で務めており、市場に対する勘も申し分ない。そんな同氏が掲げた新たな事業戦略の柱は大きく2点。1つは、Asianux Server 3のような従来からの製品を長期に安定して稼働・運用できるソリューションを引き続き提案していく点。MIRACLE LINUX v4.0(Asianux 2.0)のサポートを2019年5月末まで行うなど、「枯れた」製品を長期間安心してユーザーに使ってもらうための体制を敷いた。

 もう1つは、Linuxの応用分野として期待を寄せるモバイルインターネットデバイス(MID)の市場へ進出する点だ。発表会では、Intel Atomプロセッサ用のOSである「Asianux Mobile Midinux Edition」を搭載したレノボ製デバイスを披露。コンシューマ向けへの製品展開も視野に入れつつ、メインは外回りの営業や工場で利用される産業用コンピュータなど、ビジネス市場での展開を図っていく考えだ。

 「日本はWindowsの呪縛(じゅばく)にとらわれている」(児玉氏)

 このAsianux Mobile Midinux Editionの開発で陣頭指揮を執るのが、それまで取締役CTOを務めてきた吉岡弘隆氏。同氏は今回、経営者という立場から再び一技術者に戻り、エバンジェリスト活動とMID(モバイル・インターネット・デバイス)の開発をリードするという。同氏のブログ「ユメのチカラ」にも「取締役退任。生涯一プログラマ宣言」と題するエントリで、新たなチャレンジへの決意をつづっている。

オープンソースソフトウェアという未開の耕地にビジネスの種を植えた8年であった。

今後は一プログラマとして会社やコミュニティへ貢献していきたい。今年でわたしは50歳になる。いい年したおっさんである。とっとと技術屋なんかは引退してマネージメントの仕事でもしていろよという声も聞く。40代はミラクル・リナックスの取締役としての立場(?)もあったわけだが、それも退任したことだし、50代は、わがままを言って現役のプログラマに戻してもらった。はたしてプログラマとして使いものになるのか、ならないのか、不安がなくもない。この年で新しいことにチャレンジすることの難しさも知らないわけではない。

人生、綺麗事ばかりではない。いいこともあれば悪いこともある。上手くいくこともあれば上手くいかないこともある。成功もあれば失敗もある。家族には苦労をかけて申し分けないと思う。給料も役員報酬がなくなったので減ってしまった。子供の教育費も家のローンもある。

それでもと、思う。人生再チャレンジである。いくつになってもチャレンジである。

吉岡氏のブログより転載(原文ママ)

 今回の発表で記者が好感を持った点として、児玉氏が掲げた今後のミッションの1つである「OSSのリーディングカンパニーとして、OSSコミュニティーとビジネスの世界をつなげ、双方の利益を作り出す」を特筆しておきたい。業務面で関連が強いLinuxカーネルやIntelが主導するモバイルインターネットデバイス用のLinuxプロジェクト「Moblin」、ZABBIXといったコミュニティーへの支援が第一にあるが、「コミュニティーの中には勉強会の会場を確保するのに苦労しているところもある。そうした場として当社のセミナールームを使ってもらえるようにしたい」と、かすみのようなコミュニティーだけではなく、開発者のために広く役立とうとする気構えが見て取れた。

 土日などで会社のセミナー室を業務上関係のない人間に開放することの難しさは、経験したことがある方なら理解いただけるかもしれない。ミラクル・リナックスはトップ自らがそれを支持すると明言した。すでに1000speakersやEmacs勉強会などに会場を提供していることからも、それが有言不実行となるリスクは小さいと考えてよい。自社のビジネスに関連する貢献をオープンソースコミュニティー全体に拡大解釈して吹聴するベンダーも散見される中、こうした英断を行える体制にある同社は今後が期待される。

 2008年度(2007年6月1日〜2008年5月31日)の売り上げ実績では、NGN−Telecom分野が成長したほか、サポートやコンサルティングサービス関連に事業の軸が動いていると児玉氏。今後、上述したような事業戦略に沿って、3年間で90%の売り上げ拡大を目指すとした。

 ミラクル・リナックスは、今回の経営体制刷新を「第二の創業」と位置づけ、新たなかじを切り始めた。児玉氏の手腕に注目したい。

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