リスク管理の本質とは――今、大流行の「危機管理」:なぜあの会社は叩かれたのか(2/2 ページ)
偽装や隠ぺい、不正行為。なぜ企業は危機によっていとも簡単につまずくのだろうか?
なぜ企業はいとも簡単に危機に陥るのか
企業は、なぜ危機に直面した時にネガティブスパイラルへと陥り、あっという間に奈落の底に落ちていくのだろうか。簡単に言えば危機意識が欠落してしまっているからである。そして、「危機意識は十分にある」「危機管理をしている」と誤解していることも多い。その結果、流行りものとしての危機管理を導入はしてはみたが、危機に対して「本当の準備」はできていないということになる。
一人一人の日常業務の中や組織そのものの中にはさまざまな危機が潜んでいるということを、経営陣や社員、そして組織全体が認識することは、実際にはとても困難である。この認識が正しく浸透していれば、企業の存続を危うくするような重大な危機に陥ることはまずあり得ないと言える。それでは、なぜ危機に対する正しい認識とその適切な管理意識が醸成されないのでろうか。
1つには、「人は(人の集合体である組織も)、危機に対し楽観的である」という根源的特質を持つからである。
これは、がんが致命的な病気になりうる可能性があることを知らない人がいないにもかかわらず、毎年検診に行く人はごく僅かかであるということと全く同じ理由だ。危機の多くは、「起ってはいけないこと」と十分に承知をしているが、「自分たちだけは大丈夫」と根拠もなく信じている。少々の事柄が大事に発展するのは1%の不運でしかなく、「自分たちは当然残りの99%に入るはずだ」と信じている。50件の顧客情報リストが入った個人使用のノートPCや、情報が記載されている書類が入った社名入り封筒を電車内に置き忘れたことを申告しない社員は、あなたの会社にも恐らく大勢いるだろう。
次に、社内風土に問題がある場合となる。風通しの悪い企業、悪い報告を嫌う上司、マイナスポイントばかりをみる人事評価、臭いものに蓋をする企業文化、「裸の王様」が代表者である――こういう企業こそ内部の浄化機能が働かず、ある日突然たまり兼ねた社員や関係者がマスコミに内部告発する。このような企業は、突然大きな不祥事を引き起こし、ネガティブスパイラルに陥っていく。
最後に危機管理に取り組もうとしている企業で、危機意識の醸成を阻む最大の要因は危機の本質を理解していない、もしくは誤解をしているケースが多いことだ。つまり、「危機とは何か」ということを理解していないのである。
この「危機とは何か、危機の本質とは何か」が分かれば、おのずと平時に取り組むべき危機管理の中身や、緊急時に何を最優先として行動すればよいかということがみえてくる。危機管理においては、「危機とは何か、危機の本質とは何か」を知ることが初めの一歩であり、同時にそれがほぼすべてであるといえる。
「危機とは何か、危機の本質とは何か」については、次回述べていこう。
著者プロフィール
プラップ・ジャパン取締役、危機管理コンサルタント。業種や業態を問わず、「危機管理とは何か」という基本的視点から企業経営における危機管理体制の実現を日夜サポートしている。
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