事例から見る、ネガティブスパイラルへの陥り方と対処術:なぜあの会社は叩かれたのか(2/2 ページ)
不祥事やリスクによってなぜ企業は簡単に危機に追い込まれるのか。その仕組みと対処の仕方をみていこう。
危機管理の実践法
それでは、企業の危機管理史上最も衝撃的な事件となった某食品メーカーの事例を参考に、日常にける危機管理について考えてみよう。清潔で親しみやすさに満ちた同社の企業ブランドが、修復するべくも無く崩れさったその要因は以下の通りだ。
- (a)現場における危機意識の欠落
- (b)現場で起こりうる危機に対する上層部の無知と危機に対する準備不足
- (c)不祥事発生後のコミュニケーションの失敗
(a)によってリスクが起こり、(b)よって組織内の混乱が拡大し、(c)によって徹底的にマスメディアや消費者、社会を敵に回して、最終的に企業が崩壊した。この教訓から、平時の危機管理では3つの優先課題がみえてくる。
- 社内全般の危機意識の向上、リクスマネジメントの取り組みの意欲の向上をしておくこと(Crisis Preparedness)
- 起こりうるリスクの抽出と分析、それに基づく対応策の作成示唆と緊急時の対応方法の準備をしておくこと(Risk Management)
- 緊急時のコミュニケーションの準備をしておくこと(Crisis Communication)
具体的には、社内で広報や人事、法務、顧客管理といった各部門を中心とするプロジェクトチームを立ち上げ、そのタスクフォースを中心に全社の協力を得て、社内のリスクを洗い出し、リスクの分析を行う。社内外の調査では、現状の危機管理体制やケーススタディ分析、過去のリスク対応の振り返り、社外のリスク環境分析などを実施する。そして、未然に防止できる案件については関連部署へ対応方法の策定(コンテンジェンシープラン)を求め、緊急時における基本的フレームワークや方針を策定する。社内体制を構築して、最終的に緊急時のマニュアルとしてまとめる。その上で、緊急記者会見などの緊急時のコミュニケーション対応にけるトレーニングを実施するべきだろう。
もちろん、危機管理に取り組む方法はさまざまにあり、どのポイントからスタートするのか企業の事情や規模によって大きく異なる。たが、一つだけ忘れてはいけないのは、危機管理とは「全社的な取り組み」として位置付けなければいけないという点だ。
危機を未然に防ぐために万全の施策を取ったとしても危機は起こる。そして、危機が起こった際を想定して準備を重ねたとしても、100%シナリオ通りに危機が展開されるわけではない。準備に完璧ということはないのである。
いざ危機が起こった際に最も重要なことは、予測し得なかった出来事や変わり行く世論、刻々と変化する事態に対して、豊富な情報に支えられた「正しい社会の目(道理)」でもって的確かつ柔軟に判断し、迅速に臨んでいくことだ。その柔軟さと社会的感性こそが、企業の危機を救い、明日を創るといっても過言ではない。危機管理の成否こそが、企業の社会的感性の試金石といえるのである。
著者プロフィール
プラップ・ジャパン取締役、危機管理コンサルタント。業種や業態を問わず、「危機管理とは何か」という基本的視点から企業経営における危機管理体制の実現を日夜サポートしている。
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