アルゴリズムと戯れる元野球少年が手に入れた宝物(2/2 ページ)
Imagine Cup 2008のアルゴリズム部門で世界第3位となった高橋直大氏。彼の軌跡を眺めてみると、わたしたちが忘れてしまったことにすら気づかない何かを思い出させてくれるような気持ちになる。
なぜ高橋はアルゴリズムを考えるのか
3位入賞を果たしたフランスでのImagine Cupから帰国後、彼の人生は彼が予想した以上の変化をみせている。帰国後の彼のブログには、「何で自分がここまでいけちゃったんだろうとは思ってたけど、ほんとに大きいことやっちゃったんだなぁ……ってのをいまさら実感」「やっぱりImagine Cupの実績は自分には明らかに大きすぎるというか重すぎるというか、そんな感じがっ」といった書き込みがある。
「どんな優れたアルゴリズムでも効率的に実装できなければ意味がない、学術的なアルゴリズムだけをやっていても現実には何の役にも立たない」――そんな声を大手企業のエンジニアとして働く方から聞いたことがある。「現実のプログラミングは独自の世界であり、学術的なアルゴリズムから恩恵を受けているわけではない」――こんな風に言ってのけるエンジニアにも会ったことがある。そんな彼らからすれば、高橋の姿は裸の王様と受け止められているのかもしれない。
こうした声に対し、「アルゴリズムはプログラムの一部でしかない。アルゴリズムだけを理解していてもソフトウェアを作れるわけではない」とつぶやくように話す高橋。その顔にはさも当然だろう、といった表情さえ浮かぶ。しかしそれでも、そうした世俗をそぎ落とした後に残るものはきっと1つの真理に違いない。アルゴリズムの先にあるものとは何なのか、高橋の関心はそこに向いている。Imagine Cup出発前に彼が口にした言葉――「今はアルゴリズムという方法を極めようとしている過程であって、目的(将来)はまだ分からない」――もそうした思いが口をついて出てきたのだろうと筆者は考える。
結局のところ、アルゴリズムとは何か問題があったときにそれをどう解くかという考え方の指向性、言い換えれば“戦略”である。そして、これはコンピュータに閉じたものではない。あらゆる場面で戦略は求められるものだからだ。特に、膨大な情報に簡単にアクセス可能となった今日、記憶力に立脚する知識はすでに陳腐化しているといってよい。むしろ重要なのは、膨大な情報を駆使して創造的な考え方ができるかどうか。そう、戦略的な思考を頭の中で組み立てられる力があるかどうかこそが、重要な価値を持つようになってきている。ライフハックなどの言葉で表現される“にわか戦術”ではなく、“戦略”を持って動ける人間こそが、さまざまな問題を解決していけるのだ。高橋が追い求めようとしているもの、それは、いかなる状況下においても役立つ戦略的思考にほかならない。
「アルゴリズムは競技」
筆者が興味深いと思ったのは、そうした戦略的思考を養う場としてImagine Cupはどう機能するかという質問に対する彼の答えだった。高橋は「英語の重要性」「競争することのすばらしさ」の2点を即答した。
「アルゴリズムを競技として認識している」と話す高橋は、自分よりある程度レベルが高そうな人物をライバルに設定し、そこに挑んでいくというスタイルを自分の中で確立している。
「競争相手がいるのといないのとではモチベーションが全然違う。(ライバルに)追いつこうとすることで、自分の技術をそのレベルにまで高めることができる。ライバルを誰にするか迷うのなら、一番上の人にしておけばいい」(高橋氏)
そしてライバルは日本国内で見つけなければならないわけではない。世界を見渡せば適切なライバルは幾らでもいる。だからこそコミュニケーションを図るためのツールとして英語が必要なのだという。
言葉を飾り立てるでもなく、淡々と挑戦することのすばらしさを語る現代の軍師は周りにも影響を及ぼしつつある。例えば、今回のImagine Cupに同行していた鈴木良平氏や中村篤志氏なども高橋の影響を受けた人物として挙げられる。日本学生科学賞を受賞し、その副賞としてImagine Cupの視察を行った2人。特に、高橋と同じ高校の先輩後輩といった関係で、よき友人でもある鈴木氏は高橋から相当の刺激を受けたようだ。その刺激は帰国後も鈴木氏を鼓舞し続け、7月28日から8月1日にかけて開催された夏の電脳甲子園「SuperCon」では優勝を果たしてしまった。鈴木氏もまた、挑戦することで自らの世界を変えたのだ。
何かを追求しようとして、その前に横たわる障害にぶつかると、多くの人はそれを理由にして追求することをあきらめてしまう。しかし、それでは何も得ることはできない。そして、何かをやり続けるということを除けば、高橋は決して特殊な人間ではないことも付け加えておくべきだろう。これから何かに挑戦しようとするすべての学生に対し、筆者は高橋の言葉を最後に贈りたい。
「視野を広く持ってさまざまな人とふれ合うことで見えてくる世界もある。Imagine Cupもそう。知り合いでImagine Cupをやっている人がいたからこそ、今の僕があると思う。自分が見えていない世界だからといってそれが存在していないわけではない。一見自分に関係がないことのように思えても、いつかきっと関係してくるはず。まずはやってみて、そしてやり続けてほしい」(高橋氏)
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