SGIの技術が支える、“没入”できる映像体験とCADイメージでの商品デザイン:屋内でバーチャルな花見を体感
日本SGIが開催したフォーラムで、同社の映像技術を生かした取り組み事例が紹介された。大学での映像研究システムを用いた学生教育と、CADイメージを生かした中小企業での商品製作の2つを紹介する。
日本SGIは10月23日、「Solution Forum '08 Autumn」を開催した。「Visualization Forum」と題したセッションでは、奈良先端科学技術大学院大学に導入された4K映像研究システムと、最新技術を使った日本の中小企業の「ものづくり」の形について考察が加えられた。
双方向の“没入感”映像システム
奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)では、ハイビジョンの4倍の解像度――約800万画素の超高精細画質「4K」の映像研究システムが7月より稼働している。
このシステムは、ソニーの4K“SXRD”プロジェクター「SRX-S110」、日本SGIの統合ビジュアライゼーションプラットフォーム「Asterism Power」、HDカメラ、画像センサー、PlayStation3、Blu-Rayなどの装置で構成される。情報科学研究棟の1階エントランスの壁面という人目に触れる場所に、横幅4.5メートル、高さ2.38メートル、200インチの大画面のスクリーンを設置する。
奈良先端科学技術大学院大学の理事・副学長の千原國宏情報科学研究科教授はこのシステムを「双方向の没入感」システムと位置付ける。「“このディスプレイは何なんだろう? ”“4Kを何に使ったらいいか”を学生に考えてもらうことが導入の目的」と千原教授。他大学ではできない人材育成をする狙いがある。
4K映像研究システムでは「没入感」の名のとおり、スクリーンに映し出された風景の中に「没入」していく感覚を得られる。スクリーンの前に立った人の動きをカメラでとらえ、映像の中のCGと連動させ、映像を操作できる。NAISTが所有する飛行船から撮ったパノラマ画像で上空からの映像を楽しんだり、360度撮影できるカメラで撮影された桜並木の映像で「バーチャル花見」などが体験できる。スクリーンの前に立ち腕を左に向けると、スクリーンには桜並木の左側の映像に切り替わる。
「本来、ディスプレイサイエンスというと、液晶などディスプレイを作るハードウェアの研究を指していた」と千原教授。同氏は「ソフトなディスプレイサイエンスを提案したい」と話す。何を写し、何を提示するのかといったコンテンツの研究がそれに当たるという。このような研究で、携帯電話の小さなディスプレイでも4Kの大きなディスプレイでも見れる「シームレスな映像」を実現し、「どんな映像でもどの大きさのディスプレイでも、ユーザーが意識せずに、画像ディスプレイに適した大きさで表示することが可能になる」と千原教授は提案する。
CADイメージを実現するものづくり
KEN OKUYAMA DESIGNの奥山清行代表は、日本SGIのリアルタイムデザインビュワー「DesignCentral Imager」を用いてデザインした自動車を2月にジュネーブモーターショーに出展した。奥山代表は、大企業の下請け業務が中心となり自社商品を持たない日本の中小企業に、自社製品を持つことで得られるメリットと、それを実現する新しい「ものづくり」の形を提案する。
奥山氏が提案するものづくりは「デザインの段階で目標を映像化、ビジュアル化して視覚的にはっきりさせる」作業が大切という。CADイメージで商品やその商品を実際に並べる空間をデザインし、そのCADイメージをそのまま再現するものづくりだ。実際に物を作って、写真にしてデザインを考える作業には、その作業だけでかなりのコストが掛かる。「早期のビジュアル化によって時間を短縮し、費用を削減できる。人手や予算不足の中小企業でも、自社商品を作れるようになる」と奥山代表は話す。
いままで自社商品を持たなかった中小企業や地場産業が自社商品を持つことで、実際に利用者からフィードバックを得られるようになる。「研究室や開発センターでアイデアが作られていても、実状に合っているかどうかは、製作現場でないと分からない」と奥山代表。「将来その商品を買う消費者の声を、開発と製作の現場でフィードバックとして得られれば、消費者にとって新しい価値を作り出すことができるようになる」と同氏は期待をこめて話した。
「匠の技もそれだけでは生きない」と奥山代表。匠の技の陰に最新技術やアイデアがあり、それらを活用することでものづくりは成立するという。技術を最大限に使ったものづくりの新しい形を奥山代表は提唱している。
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