クラウドとSaaSの位置関係を解き明かす:アナリストの視点(2/3 ページ)
今年に入りSaaSという概念がこれまで以上に注目を集めている。本連載ではクラウドコンピューティングという概念から、SaaSのメリットや本質を読み解き、その将来像を描き出してみる。
その理由の1つ目は視点の違いだ。XaaSがサービスを提供するモデルを示すのに対し、クラウドコンピューティングは情報処理システムを構築・運用する手法を指す。
2つ目はクラウドコンピューティングが持つ「抽象化」だ。クラウドコンピューティングではハードウェア、OS、ミドルウェアといったシステムの階層を意識せずに、各種サービスの規約に従ったやり取り――人によるアプリケーションの利用や、プログラムによるデータベースの接続プロトコルなど――ができる。
データ量やアクセス負荷の増大には、HDDの増設やロードバランサーの設置で対応できる。システムの構成要素を直接意識する機会はない。つまり、高度に抽象化された情報処理システムということができ、利用側はサービスの規約に従うだけでいい。
ここから、クラウドコンピューティングは「XaaS+膨大なコンピューティングリソースを背景とした抽象化」という要素を含むサービスを利用して、システムを構築・運用することと言い換えられる。
SaaSからXaaS、そしてクラウドコンピューティングへ
クラウドコンピューティングを実現する基盤を提供するためには、膨大なコンピューティングリソースが必要となる。下の図は、クラウドコンピューティング基盤の主要な提供元を示したものだ。どのシステム階層の機能をどこまで抽象化して提供するかによって、微妙な違いが生まれていることが分かる。
SaaSの普及につれて、ユーザーが独自に開発した情報処理システムをどうするべきが課題になってくる。独自に開発したシステムをSaaSで実現できるか、というアプリケーション層だけで議論の議論では限界が見えてくる。
対象範囲をハードウェアまで広げるXaaSの概念に加え、それらを抽象化して提供するクラウドコンピューティングの考え方を取り入れることで、現実的な解決策を導き出せるようになる。
ハードウェアからアプリケーションまでのシステム階層を柔軟かつ手軽に構築し、運用できる基盤があれば、自社内に構築したシステムと同等のものを組み上げることも不可能ではない。情報処理システムをクラウドコンピューティングの基盤上に配置することで、データ容量やアクセス負荷の増大への対処は抽象化され、直接手をかける必要もなくなる。
このようにSaaSはPaaS、XaaSを経てクラウドコンピューティングに進化することで、その可能性を大きく広げ始めている。
国内でもこうした事例が出始めている。キヤノンマーケティングジャパンは2008年4月にセールスフォース・ドットコムが提供するクラウドコンピューティング基盤「Force.com」上で、携帯電話に対応した顧客管理システムを構築した。
Force.comが提供するAPIでシステムを開発し、基幹システム上の顧客マスタや売上実績、保守契約といったデータと連携した。携帯電話向けSaaS「Salesforce Mobile」経由で利用できる。SaaSだけでは難しいとされていた基幹システムとの連携は、クラウドコンピューティング基盤を活用することで、容易に実現できる。このような運用のケースは今後も増えていくだろう。
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