Mozillaのモバイルブラウザ「Fennec」試用記:Firefox Hacks
Mozillaはデスクトップブラウザ市場に変化をもたらした。Fennecにより、モバイルブラウザ市場へのその影響はさらに大きなものとなることをわたしは期待している。
Mozillaは先週、モバイルブラウザ「Fennec」の動作可能な最初のα版をリリースし、画面の小さい機器向けに最適化された新しいインタフェースを披露した。そのスリムな外観とは裏腹に、FennecにはFirefoxでよく知られるものと同じMozilla技術が基盤として採用されている。わたしが自分の携帯機器で試用したところ、うまく工夫されたインタフェースを持つ魅力的なブラウザであると感じた。
Fennecプロジェクトは、モバイル機器向けのMozillaベースのブラウザとして最初のものでもなければ唯一のものでもない。Nokiaは、「Maemo」プラットフォーム搭載のインターネットタブレット向けに「MicroB」ブラウザを使用しているし、Windows Mobile搭載電話向けにはかつて「Minimo」と呼ばれる今はなきプロジェクトが存在した。しかしFennecは、正式なMozillaプロジェクトであるという点においてほかとは異なり、レンダリングエンジン「Gecko」以上の機能を搭載する。Fennecは、JavaScript、XUL、プラグインやエクステンション、さらにはAwesomebarのような最近追加されたものまで、Firefoxの標準機能をサポートする。
この初の使用可能版は、Mozilla LabsのFennecプロジェクトサイトから入手できる。Mac OS X、Windows、デスクトップLinux向けのビルドとともに、Maemoタブレット向けのWebインストールが可能なビルドが提供されている。リリースノートによると、Maemoビルドは、ハードウェアキーボード搭載のタブレット製品ライン「N810」をターゲットとしているらしいが、何の問題もなくこれを「N800」にインストールし、動作させることができた。
隠されたインタフェース
Fennecの最も革新的な機能はおそらく、そのユーザーインタフェースだろう。コンテキストセンシティブなUIエレメントと、ジェスチャによってアクセスするオフスクリーン制御により、ページレンダリング対象となる画面サイズを最大限に大きくしようとしている。
ブラウザのスタートページには、はじめてのユーザーに対する操作説明が表示される。左にスライドすれば隠れていたツールバーが現れ、右にスライドすればタイトル文字列ではなくページサムネイルが並んだタブバーが現れる。ウインドウ上部のロケーションバーは最小限で、Favicon(ファビコン)、再ロードボタン、ブックマークボタンのみからなる。
サイドでアクセス可能なツールバーに加えてFennecでは、テキスト入力にURL補完と検索機能を搭載し、必要なURLをできる限り早く入力できるようにしている。URL補完機能は、Firefox 3のAwesomebarとよく似ており、マッチする文字列のリストがアドレスとページタイトルの両方に表示され、入力を続けるとそれに合わせてリストが調整されていく。より高速に検索するには、ロケーションバーに検索語の一部を入力し、ポップアップウインドウの下端の検索ボタンの1つをクリックする。
Mini Foxとでも呼ぶべきその能力
ご存じない方のために触れておくと、Fennecとは、北アフリカに生息するポケットサイズのキツネ(fox)の一種である。その名のとおりFennecブラウザはFirefoxのミニチュア版といえる。機能が縮小されているのではなく、軽量であるという意味だ。
そのためFennecには、多くの電話に搭載されるモバイルブラウザにはない機能が存在する。例えばダウンロード、クッキー、パスワード、証明書に関するFirefoxの管理機能、AJAX Webページのフルサポート、タブブラウジングなどである。またエクステンション、プラグイン、テーマもサポートし、アップデート通知や、オンラインブックマークおよびパーソナライゼーションを行うWeaveなど、Mozillaのオンラインサービスとも連動する。
さらに同プロジェクトのビジョン声明には、位置情報特定(geolocation)、Webページ内からの通話発信、機器上でのPIMサービスとの統合など、デスクトップのFirefoxにはないモバイルフレンドリーな概念も含まれている。
パフォーマンス
わたしのテストではFennecは、当然かもしれないがN800タブレット上のMicroBよりも遅かった。N800ユーザーからは、同機器のソフトウェアキーボードに関する問題も報告されているが、今回はそのような問題には遭遇しなかった。
Fennecのユーザーインタフェースについては、隠れたツールやタブバーにはすぐに慣れるが、スタイラスを用いてページを上下にスクロールしているさなかに誤ってそれらを表示してしまいやすいように感じた。N810をキーボード付きで使用しているユーザーならば、ハードウェアキーによってスクロールすればこの問題を回避できるかもしれない。しかしタッチスクリーンで操作する場合には、このナビゲート方法は好ましくないかもしれない。
話はそれるが、数ページ表示した時点で、Fennecでは従来のスクロールバーを完全になくすことにより、画面スペースを広げていることに気がついた。スクロールバーがなければページのどの部分を表示しているのかが分からないため、そこまでして画面スペースを広げる必要があったかどうかは疑問である。
インタフェースのそのほかの部分は素晴らしい。ロケーションバーの自動補完や検索機能は高速でしかも控えめであり、タブバーのサムネイル表示も気に入った。Fennec用のテーマやそのほかのアドオンはまだないが、Firefoxと同じAPIを採用しているため、すぐに開発されるだろう。
Mozillaがモバイル分野に多大なリソースと労力を投入したことは喜ばしい限りである。Mozillaはデスクトップブラウザ市場に変化をもたらした。モバイルブラウザ市場へのその影響はさらに大きなものとなることをわたしは期待している。
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