「10秒先の危険を検知」「雑踏でも聞きやすい」――慶大が提案する「安全を守る」ツール :SFC ORF2008 Report
視覚に障害のある歩行者に移動体の接近情報を知らせる端末、雑踏の中でも音が聞きやすいスピーカーなどが「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2008」で発表された。人々の生活をより安全なものにするツールを紹介する。
11月21日、22日に、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が研究成果を一般に公開するイベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2008(ORF2008)」が開催された。展示会場では各研究室が、インターネットリサーチや環境バイオプロジェクトなどの研究成果をパネルやデモを用いて発表した。ネットワークカメラで自動車などの移動体を検知して視覚に障害のある歩行者に伝える端末や、駅のホームの雑踏の中でも音が聞き取りやすいスピーカーなど「人々の安全を守る」ツールを紹介する。
視覚に障害のある人の歩行支援―10秒先の危険を察知
同大学環境情報学部の高汐一紀研究会では、視覚に障害がある人の屋外歩行を支援するツール「YochiNavi−予知ナビ−」を開発している。視覚に障害がある人が障害物を察知するための白杖などを身につけて歩行する場合、障害物を察知する範囲が狭く、静止した障害物しか察知できない。
YochiNavi−予知ナビ−は街中にネットワークカメラを設置して、自動車などの移動体の情報を取得し、利用者が持つ専用の端末に伝える。GPS(全地球測位システム)で取得した利用者の位置情報と移動体情報から移動体が接近する場所と時間を割り出し、利用者が持ち歩く端末の地図上に表示して危険回避を促す。画面表示のほかに「立ち止まりましょう。およそ10秒後、右からバスが来ます」といった音声での注意や、「近くに自動車はいません」といった案内をする。
雑踏の中でも聞きやすいスピーカー
「スピーカーの構造は、100年間変化していない」と話すのはSFC研究所の上席研究員を務めるアイ・サイナップの江藤潔社長。SFCの環境情報学部、武藤佳恭研究室の指導で正確な音を出すスピーカーの研究開発をしている。
江藤社長は、従来のスピーカーが、音声の入力信号と出力信号の波長が一致せず、正確な音を出していないことに気付いたという。2つの波長を近づけるスピーカーの研究に取り組み、バイモフルピエゾ素子を用いた「アラミドハニカムボード」とフレキシブル平面コイルを用いた平面磁石の2つのスピーカーを開発した。
従来のスピーカーの音は、距離が2倍になると6デシベル音圧が下がるが、新しいスピーカーでは3デシベルしか下がらないことが判明。音が遠くまで聞こえるという。また、音が物体に反射することでのエコーがなくなり、雑踏の中でも聞きやすい音を出せる。
SFC研究所の上席研究員でジェイアール東日本コンサルタンツIT事業本部の小林三昭部長は「遠くまで聞こえ、エコーがない。雑踏でも聞きやすいスピーカーを駅のホームで使えないかと考えた」という。平面磁石のスピーカーは半円型で、音が円の内側に出力されるため外部に拡散しない。ホームにある自動販売機に音が反射することによる、近隣への騒音問題も防げるという。「新しく開発したスピーカーの特性の理由は現在究明中」(江藤氏)だが、実用化に向けて、2社で研究を重ねている。
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