顧客の期待を知る――サービス・プロバイダの心構え:差のつくITIL V3理解(3/3 ページ)
例えば社内の情シス部門。間接部門だからといってその座は安泰ではない。会社は常に、サービス・プロバイダとしての情シス部門を評価し、場合によってはアウトソースすることだってあるのだ。
集約か、非集約かを選択する視点
顧客にしてみれば、サービス・プロバイダがどのタイプであっても、メリットとデメリットがあることになる。言い換えれば、事業が抱えている課題や事業が求めている目標を見極めて最も適切であると思われるタイプのサービス・プロバイダを選択することが求められる(図3)。
この図にある「集約」とは、ITサービスを事業部門に集約することであり、言い換えればサービス・プロバイダを事業部門内に置くことである。逆に「非集約」とはITサービス部門を事業部門がある組織とは別の組織に置くことである。この決定は、顧客が次のような質問に答えることによって決まってくる。
- その活動には非常に専門的なIT資産が必要か?その活動が行われなくなったとき、IT資産は利用されなくなったり、陳腐化したりするか?(「はい」の場合は非集約)
- その活動は、一定期間または事業サイクル内でどのくらい頻繁に行われるか? めったに行われないか、または散発的か?(「はい」の場合は非集約)
- その活動はどのくらい複雑か? 単純な繰り返しか? 長期にわたって変更がほとんどなく、安定しているか?(「はい」の場合は非集約)
- 良いパフォーマンスを定義することは困難か?(「はい」の場合は集約)
- 良いパフォーマンスを測定することは困難か?(「はい」の場合は集約)
- 事業内の他の活動または資産と密接に結びついているか? 分離すると複雑性が増し、調整の問題を引き起こすか?(「はい」の場合は非集約)
この質問における「非集約」は、アウトソーシングも含まれる。
このことは、事業体は、必要に応じて、自組織内の事業部門を支えているサービス・プロバイダを、柔軟に選択/変更するということを意味する。タイプ1、すなわち社内のIT部門が、外部のサービス・プロバイダと競争しなければならないということでもある。IT部門は間接部門だ、なんていっていられない。ウカウカしていると、社外の組織に自分たちの仕事を奪われるのだ。
もちろん、これらのタイプは排他ではない。例えば事業のコアサービスの部分はタイプ1の内部サービス・プロバイダが受け持ち、コアサービスを支援する部分はタイプ3が受け持つ、というような「マルチソーシング」環境もありえる。また、顧客はパフォーマンスの良い現任者を解任するようなことはしないだろう。そのためサービス・プロバイダは、顧客と達成目標を共有し、顧客の悩みを解決し、顧客との関係の持続を図ることに焦点をあてなければならない。
社内のIT部門だからといって、甘えてはいられないのだ。
※本連載の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を採用しています。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
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