顧客要望へ応える姿勢――「やります」と「やってみます」の違いを知る:差のつくITIL V3理解(2/2 ページ)
連載も少しずつ、具体的な方法論へ入っていく。今回は「戦略」を扱う。体系に従い戦略を立案することで、顧客に対しとるべき行動が見えてくる。
「計画(Plan)」としての戦略
自分たちの戦略をどのようにして実現するか、という見方からの戦略である。前回にも書いたが、自分たちの組織を「現在の姿」から「あるべき姿」に移行していくための、行動方針である。
計画には一般的に、次のようなものが含まれる。
- 財務的予算
- サービス・ポートフォリオ
- 新規サービス開発
- サービス資産への投資
- 改善計画
新しい用語に、サービス・ポートフォリオがある。簡単にいえば、サービス・プロバイダが提供するサービスと、そのサービスにまつわるすべての情報を一覧にしたものである。その中には、計画・設計中のものから、開発・テスト中のもの、稼働・運用中のもの、そして廃止してしまったものなど、すべての状態のサービスが含まれる。これらすべてのステータスの中で、顧客から見える(顧客に見せる)開発・テスト・稼働・運用しているサービスが、サービス・カタログとなる。
また、サービスの内容のみならず、そのサービスが顧客に与える価値やメリット、なぜそのサービス・プロバイダがそのサービスを提供するのか、サービスを提供する上でのリスクや問題点にはどのようなものがあるか、といったことも含まれる。
同じような戦略を持ち、同じようなIT資産を持っているサービス・プロバイダが、方や成功しもう一方は失敗している、という例は多い。これは(必ずしもそうとはいえないものの)戦略がいかに計画に移されるか、いかに実行されるか、いかにコントロールされるかにかかっているのである。
「パターン(Pattern)」としての戦略
自らの戦略や、そのための計画をどのようにして実行し続けるか、キープし続けるか、ということ。つまり「行動パターンとしての戦略」という意味である。
成功した行動パターンには価値がある。また、その行動パターンに一貫性があり、きちんとコントロールできるのであればなおさらである。そのような行動パターンは、ほぼ文書化される。中には暗黙知として文書化されないものもあるだろうが、そんな行動パターンの中にも価値は潜んでいる。
行動パターンの例として、ITIL書籍には次のようなものが挙げられている。
- 顧客からの問い合わせには、最初のメールまたはコールで必ず回答しなければならない
- 運用スタッフは最小限の認証をうけていなければならない
- 新技術は特定の標準に準拠していなければならない
- サービスの安定性は展開のスピードよりも重要である
上記はすべて、観点としての戦略を下支えし、戦略から戦術を生み出すための基準となるものである。
話はそれるが、筆者が住んでいる地方の、ある総合家電量販店のスローガンは「やってみます」というものである。「やります」ではないところがウマい。できないことがあるかもしれないけどごめんね、でも顧客から望まれたことはとにかくやってみます、というものである。これは「地域一番店になる」というような「観点ベースの戦略」を、「パターンベースの戦略」に置き換えたものだといえるだろう。
※本連載の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を採用しています。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
関連記事
- ITを道具ではなく、レストランのような「サービス」として考えてみた
例えば「イス」と「レストラン」の違いは何か? それは全社が24時間365日の稼働を求められる「道具」であるのに対し、後者は深夜および休日は閉店する「サービス」であることだ。この違いを理解すると、ITサービスを理解する近道となる。 - 顧客の期待を知る――サービス・プロバイダの心構え
例えば社内の情シス部門。間接部門だからといってその座は安泰ではない。会社は常に、サービス・プロバイダとしての情シス部門を評価し、場合によってはアウトソースすることだってあるのだ。 - ITは金食い虫?――資産を「リソース」と「能力」に分類してみる
企業に必要なのは「ヒト、モノ、カネ」という資産。ではその「資産」について、ITIL V3ではどのように定義されているのだろう? - ドリルを売るなら穴を売る?――マーケティングの真髄はITサービスに通じる
企業は、ITシステムが欲しくてITシステムを導入するわけではない。また、ITシステムを管理したくて管理しているわけでもない。これに気付くと、自ずからITサービスが目指す姿が見えてくる。 - 「サービスストラテジ」――何をするかではなく、なぜするかを問う
今回から、ITIL V3の5冊の書籍に書かれていることを、筆者の解釈を加えながら、ゆっくりと解説する。まずは、全体の中心となるサービスストラテジからだ。 - 「IT」という名のモンスターを飼いならす魔法の書物?
情報システムの現場でなじみの出てきたITILというキーワード。すでにバージョン3にいたり、洗練の度合いを増している。日本語版の刊行も進む中、あらためてその理念を学び業務に役立てよう。 - 初めてのサービスレベルアグリーメント
- ITガバナンスを定義してみる
- ITILの成り立ちと現状を知る
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.