世界各地の巨大な風車が示すもの:日曜日の歴史探検
何十基もの巨大な風車がぐるぐると回る姿は荘厳です。世界中では再生可能エネルギーのうち、風力発電がコスト的にこなれてきたこともあって普及期に入っています。キープレイヤーの変化もはじまっていますが、日本では……。
蒸気機関、内燃機関、電力……産業革命以来変遷を遂げてきたエネルギーはわたしたちの生活を豊かにしてきたことに異論がある方はいないと思います。しかし、IT産業でも2008年はグリーンITのような言葉がそれこそ毎日のように登場していたことからも分かるように、エネルギーに対する視点はかなり変化してきました。その中でも、自然界で繰り返し得られるエネルギーである再生可能エネルギー市場がにぎわっています。今回は再生可能エネルギーのうち、風力発電について取り上げてみます。
風力発電は洋上にも進出
風力によって風車を回転させ、その回転エネルギーを発電機に伝えることで電力を得るのが風力発電。風力発電では、風車通過後の風速が元の3分の1になるときに最大効率となることが古くから知られています。その際の最大効率は、約59.3%で、発見者にちなんで「ベッツの法則」などと呼んでいます。変換の過程で失われるエネルギーもありますので、実際には約40%程度の効率ですが、比較的効率の良い発電方法であるといえます。また、そこで用いられる技術も一昔前と比べると格段の進化を遂げています。高出力のタービン、電力制御装置の高度化、効率の高い回転翼などのおかげで、発電効率は経済的に十分採算のとれるものになってきています。
風力発電分野では欧州連合(EU)が市場を長らくけん引してきました。特に、「2010年までに電力消費量の12.5%を再生可能エネルギーで賄う」という目標が設定されていたドイツは、2007年の段階でこの目標を簡単にクリアしていますし、スペインでも2008年、国内の全電力需要に占める風力発電量の割合40%を超えた日が出ています(かなり運の良いケースでしたが)。デンマークやオランダといった国々も同様に、電力需要の20%近くは風力でまかなえるレベルにあり、この分野の技術は総じて高いレベルにあります。
こうした国々における風力発電のトレンドは洋上風力発電にシフトしつつあります。これは、さまざまな土地利用がなされている陸上では、大規模な風力発電を行うのに適した場所が不足しつつあるという事情もありますが、洋上の方が風の状態がよく、発電効率が高くなるケースが多いためでもあります。技術の進化により、素材の腐食への対策も進みましたし、建設コストも現実的なものとなりました。周辺環境への配慮(例えば魚類の生態系や漁業に与える影響)などはまだ問題として挙げられますが、税制面で支援するドイツに見られるように、国を挙げて取り組む姿勢が明らかです。
目標の達成も不安視される日本の風力発電事情
一方、日本は風力発電においては発展途上国です。日本風力発電協会(JWPA)から、2008年12月に発表された内容を読むと、2008年12月末の日本における風力発電導入量は174万5000キロワットでした(年度末で186万3000キロワットとなる予定)。日本は国土面積も狭く、季節ごとに風向きも変化し、台風が多いなど、地理的には風力発電に向いていないことも影響していますが、全体として見てみると、物理的、技術的な問題ではなく、政策や規制に成長を阻害され、風力発電は勢いをつけられずにいるようにみえます。
現在、国内最大の風力発電施設は福島県郡山市に設置された郡山布引高原風力発電所です。同発電所では、33基の風車によって6万5980キロワットの出力を得ています(数値は発電所出力)。これを上回る規模の風力発電施設の建造計画も幾つか進められており、例えば、青山高原ウインドファームでは9万5000キロワット級の発電出力を持つ施設へと生まれ変わろうとしていますし、鳥取県岩美町などでも8万キロワットの出力を持つ施設の建造が予定されています(岩美町のケースでは、生態系への影響を考慮し、その後4万7500キロワット規模に縮小されました)。
2010年度の風力発電導入量予測でも272万9000キロワットと、目標としている300万キロワットを大きく下回りそうな状態です。九州大学などでは洋上ハイブリッド発電システムを研究していますが、これらが実用化されるのはもうしばらく後になるでしょう。
中国と米国が風力発電のキープレイヤーに
欧州が主導して市場を作ってきた風力発電ですが、今後数年でこの流れが大きく変わりそうです。その主役は米国と中国です。特に、中国は2010年までに世界最大の年間市場になると予想されています。
中国は2008年末の時点で1000万キロワットの発電量を達成したとみられています。しかも、2009年中には2000万キロワットに到達しそうな勢いです。風力発電プラントは内モンゴル自治区をはじめ数多く建造されており、黄砂の発生を抑えるという副産物も生じているようです。
一方、米国では2030年までに電力の20%を風力で得ることを目指しています。現在は1%程度(それでも2万メガワット規模)ですので、数値的にはかなり開きがありますが、豊富な風力資源を有していますし、優遇税制措置など国の支援も厚いようですので、実現可能性は高いでしょう。なお、オバマ次期米大統領は、次期政権のエネルギー省の長官にスティーブン・チュー氏任命しました。オバマ氏自身、温室効果ガス削減など環境問題に積極的で、石油依存から脱却を模索しています。チュー氏は代替エネルギーの研究開発に長年取り組んできた方です。どちらかといえば、太陽エネルギー政策への投資が促進される見込みですが、オバマ政権では再生可能エネルギーを積極的に推進していくことは間違いないでしょう。
ウインドファームの開発には、石油業界大手の企業も名を連ねているケースが多くあります。例えば、米国サウスダコタ州に建設中のウインドファームは英石油大手のBPがタービン製造を手掛けるClipper Windpowerと進めているものです。石油業界のメジャーも、次なるエネルギーを探しているという好例ですが、BPに限らず、再生可能エネルギー事業を手掛ける部門を設け、こうした取り組みを行っています。
はっきりしているのは、再生可能エネルギーですべてのエネルギー需要をまかなえる時代が10年以内にやってくる可能性は限りなく低いということです。しかし、エネルギー需要における再生可能エネルギーの存在感は確実に増すでしょう。2020年、世界はどれだけのクリーンエネルギーが生まれているのでしょうか。
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