もう一度クライアントに目を向けよう――中堅・中小企業向けストレージのこれから:アナリストが斬るITトレンド(2/2 ページ)
中堅・中小向けストレージは今後、仮想化やクラウドコンピューティングなどのトレンドの中でさまざまな動きが予想される。また、有効な投資のためにはクライアントPCのあり方も再考する必要がある。
最大の課題はデータ量が少ないこと
そもそも、中堅・中小企業はストレージに対する投資にどれくらい積極的なのだろうか? 現在の経済環境による影響も大きいが、ストレージへの投資意向を示すユーザーの割合は残念ながら低いのが現状である。
なぜ、ストレージ投資をしないのか? それを尋ねた結果が以下のグラフである。実はデータ量そのものが少ないため、「サーバ内蔵ハードディスクで十分である」と考えているユーザーが4割〜6割に達している。
冒頭でストレージ市場に影響を与える要素について詳しく検証したが、データ量がストレージを必要とするレベルに達していなければ、こうした議論の前提が崩れてしまうことになりかねない。
クライアントPCのデータに注目
それでは中堅・中小企業市場でストレージが普及することはないのだろうか?サーバ側のデータだけに注目する限りではその可能性は否定できない。しかし、少し視点を変えてみると、別の可能性があることに気づく。
クライアントPCには個々の社員が作成し、共有されていない各種オフィス文書や取引先とやりとりしたメール、宛先を記したアドレスなどといった多種多様なデータが格納されている。中堅・中小企業が重要と考えるIT投資項目の筆頭はセキュリティであり、その中でも情報漏えい対策は最も優先度の高い課題だ。それを実現する手段として代表的なのはシンクライアントであるが、初期投資のコストが大きな負担となっている。
しかし、昨今では既存のクライアントPCを手軽にシンクライアント化する手段も登場してきている。クライアントPCのファイルアクセスをフックし、ユーザーに何ら意識させることなくデータ保存先をサーバ側に切り替えるといったアプローチはその1つの例だ。こうした手法が普及すれば、中堅・中小企業の多くがクライアントPC内のデータをサーバ側に集積するようになる。そうすれば、中堅・中小企業が必要とするディスク容量は一気に増大し、サーバ内蔵ハードディスクでは対応できなくなってくる。
従来、ストレージのソリューションはサーバ側に格納されるデータを主な対象としてきた。中堅・中小企業におけるストレージのニーズを見極めるためにはクライアントPCにも目を向ける必要がある。より広い視点でニーズを探れば、これまでとは違う新たな訴求パターンが見つかってくるのである。中堅・中小企業はIT活用が未成熟であるために抱える課題も多い。しかし、それを正しく見極めてソリューションに組み上げていけば、新たなニーズを創出することが可能な市場なのである。
本稿が中堅・中小企業向けストレージ市場の活性化の一助となれば幸いである。
著者紹介:岩上 由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチ シニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。
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