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エアポートリムジンバスの挑戦――収益確保以上の効果をNext Wave(1/2 ページ)

先日、エアポートリムジンバスを運行する東京空港交通は旅行・航空業界向けITソリューションプロバイダのアマデウス・ジャパンとの提携を発表した。これにより世界10万社の旅行会社で乗車券の予約、販売が行われる。そして今回の提携の背景には、近々実現する羽田空港の輸送力増強と成田新高速鉄道の開通があった。

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世界市場につながるプラットフォーム

 今回の提携は、東京空港交通がアマデウスの旅行予約システム(GDS)「アマデウス エアポート・エクスプレス・ソリューション」を導入するというもの。成田空港と都心62カ所を結ぶ路線を販売する。

 アマデウスはエアフランス、ルフトハンザドイツ航空など欧州の航空会社が中心となって設立したIT企業で、旅行、観光事業会社向けに顧客管理システムや出張管理ソリューションの提供、システムコンサルティングなども行っているが、ベースとなるのは同社が保有している旅行予約システム。同社が「ITソリューションプロバイダ」を自称するのはこのためだ。世界最大級のGDSをプラットフォームにしてさまざまなソリューションを利用者に提供し、他のプラットフォームを利用する業者のサービスと差別化し、より多くの顧客を獲得するのが基本となる戦略だ。

 今回の提携発表会見でアマデウスアジアのヨハン・ノルドクビスト マーケット・マネジメント シニア・リージョナル・マネジャ、そしてアマデウス・ジャパンの大竹美保代表取締役は世界的な不況に伴う、旅行業界を取り巻く環境悪化に触れ、いかに旅客に魅力的な差別化戦略をユーザー企業がとれるかがカギだと強調した。

 ノルドクビスト氏は「約10万社の世界中の旅行代理店が価値があると感じるコンテンツを展開していくことが、厳しい環境の中『Win Win』の関係を強化する結果につながる。その意味で今回の提携の意義は非常に大きい」と発言した。そして大竹代表取締役は「アマデウスが提携した旅客会社の中で、鉄道会社はこれまでもあるが、バス会社は初めて。ブッキングできるコンテンツがあれば、どんどん提携を進めていきたい」と話し、例としてはエンターテインメント会社や保険会社などを挙げた。つまり航空券を予約すると同時にリムジンバス、ホテルを予約し、さらに滞在中に楽しむ演劇やコンサートの座席の予約、また慣れない外国の滞在の安全性を高める保険商品も購入できるようにするということだ。

 提携する企業が利用者に提供するサービスのことを「コンテンツ」と表現するのは、いかにも巨大なプラットフォームを持つアマデウスらしさを表していると感じられた。

2010年に起こるマーケットの変化

 一方、東京空港交通にとって、今回の提携は厳しい経営環境の中での積極的な戦略の1つだ。ただ厳しさという意味では、アマデウス側が言う厳しさとは少し色合いが違う。世界不況から想定される旅客数の減少だけでなく、マーケットそのものが変わってくるからだ。マーケットの変化の1つが成田新高速鉄道の開通である。2010年にこの新線が開通すると成田空港第2ターミナルと日暮里間が36分で結ばれる。到着駅が違うものの既存の鉄道路線が都心へ50分以上かかることを考えれば、エアポートリムジンバスへの影響も小さいとは言えない。


エアポートリムジンバスの模型を手に撮影に応じるアマデウスアジアのヨハン・ノルドクビスト マーケット・マネジメント シニア・リージョナル・マネジャ(左)、東京空港交通の鈴木光男代表取締役社長(中)、アマデウス・ジャパンの大竹美保代表取締役(右)

 そしてもう1つの変化が、羽田空港再拡張事業での新滑走路(D滑走路)の建設だ。この滑走路は2010年に供用開始を目指しており、稼働が始まれば、年間の発着能力は約1・4倍に増強される。国土交通省によれば、年間3万回程度の近距離国際定期便の就航が可能となるという。韓国や中国からの旅客が成田着から羽田着便を利用することになれば、東京空港交通がアジアからの旅客で上げていた収益は減っていくことは明らかだ。羽田からリムジンバスを利用してもらうとしても、成田から都心への便に比べて運賃は3分の1以下。しかも羽田から都心へのアクセスは、鉄道との激戦区だ。独立行政法人国際観光振興機構の推計によれば、今年2月の香港からの訪日旅行者は前年同月比で60・4%減、韓国からは54・5%減となっている。このことから考えるとアジアマーケットへの依存度が高い状態では、減収が避けられない。

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