成功のヒケツは「顧客の事業と成果を観察すること」:差のつくITIL V3理解(2/2 ページ)
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ではないが、サービスを享受する側の事情を知ることは重要だ。今回は顧客について知る方法論を紹介する。
顧客の事業とその成果を観察することが成功のヒケツ
サービスプロバイダは、顧客がどのような成果をビジネス目標として掲げているかを理解する必要がある。図3は、ITIL書籍「サービス・ストラテジ」に載っている分類の例であるが、筆者としては図4に掲げたCOBIT 4.1で紹介しているビジネス達成目標の分類のほうが分かりやすいのではないかと思う。両方とも参考にしていただきたい。
現在顧客が持っている資産や、顧客自身が創出できる価値が、その顧客のビジネス目標が期待する成果を十分にサポートしているのであれば、問題はない。しかし多くの場合は、そうではない。顧客が持つ資産が成果を十分にサポートしていない場合、そこにサービスに対するニーズがあり、サービスが解決策としてその価値を発揮するチャンスがある。
書籍「サービス・ストラテジ」には、次のようなことが書いてある。「顧客の事業を洞察し、顧客成果に精通しているということは、顧客と強力な事業関係を構築するために不可欠である」と。サービスプロバイダは、自らがどのようなサービスを提供できるのか、どのようなサービスを提供できる能力があるのか、というプロダクトカットの観点でサービスを定義するだけでなく、顧客成果のベースでサービスを定義する目を持つことが重要である。
最後にサービス・プロバイダは、自らが提供するサービスが、顧客にどのような価値を与えるのかということを視覚化する必要がある。まずは図5である。これは、サービス原型(サービスが持ち合わせるビジネスモデルのようなもの)と顧客資産(サービスが価値を与える対象)とを例示したものである。サービスは、1つまたは複数のサービス原型をそのサービスの中身として持ち、1つまたは複数の顧客資産に対して価値を与える。例えば顧客のWebサーバをホスティングし、管理するということは、図5でいうところのU1、U2、U3、U4などをサービス原型として持ち、顧客資産のA7、A8、A9などに価値を与えることになるだろう。
この関係をマトリクス化し、価値の創出パターンとして視覚化する(図6)ことは大変有益である。同じ顧客資産をターゲットにする複数のサービスは統合させることができるかもしれないし、どのサービス原型により投資すべきかが分かるようにもなる。
これらの活動を通して、サービス・プロバイダがターゲットとしている市場(顧客)を明確にし、自らが提供できるサービスと顧客が求める価値とを一致させていく必要がある。それができれば今度は「2.提供内容の開発」に移るわけだが、これは次回に解説しよう。
※本連載の用字用語については、ITILにおいて一般的な表記を採用しています。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
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