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開発プロジェクトを支える名脇役たちオープンソースソフトウェアの育て方(2/3 ページ)

多くの開発プロジェクトでは、IRCやRSSフィード、Wikiといったツールを駆使して開発が進められています。本稿では、そんな名脇役たちにスポットを当てていきます。

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RSSフィード

 RSS(Really Simple Syndication)は、ニュースの概要を表すメタデータを“購読者”に配信するための仕組みです。“購読者”とは、その概要を受信したい意思を示した人たちのことです。RSSソースのことを通常はフィードと呼びます。また、ユーザーがフィードを購読するインタフェースのことをフィードリーダーやフィードアグリゲータなどといいます。オープンソースのRSSリーダーとしては、例えばRSS Banditや、そのままの名前であるFeedreaderなどがあります。

 ここでは、RSSについての技術的な詳細を説明することは控えますが*3、次の2つはしっかり覚えておきましょう。まず、購読者がフィードリーダーを使用すると、購読しているフィードを同じように扱えるようになります。これがRSSのセールスポイントの1つです。何か1つのインタフェースを選択すれば、すべてのフィードが同じインタフェースで使用でき、配信される内容に集中できるというわけです。

 次に、RSSは今やあらゆるところで利用されており、ほとんどの人は知らず知らずのうちにそれを使用しているということです。世間一般の人たちにとっては、RSSはWebページ上の“このサイトを購読”とか“ニュースフィード”とか言うちっちゃなボタンのことです。そのボタンをクリックすれば、フィードリーダー(ホームページに埋め込まれているアプレットかもしれません)は自動的にそのサイトのニュースの更新情報を取得してくれます。

 これらを踏まえると、あなたが運営するオープンソースプロジェクトでもおそらくRSSフィードを提供しなければならなくなるでしょう(あらかじめ用意されているホスティングサイト――ツールが一通りそろったホスティングサイト項を参照ください――の多くは、この機能を持っています)。一日に何度もニュースを投稿してしまわないように注意しましょう。そんなことをしたら、購読者たちはどれが本当に大切なニュースなのかを判断できなくなってしまいます。

 あまりにも大量のニュースが投稿されると、そのフィードを無視されたり、あるいは腹が立ってそのフィードの購読をやめてしまうかもしれません。理想を言えば、用途に応じて個別のフィードを提供するのがいいでしょう。大事な告知用のフィード、例えばバグ追跡システム用のフィード、メーリングリストの投稿用のフィードなとといった具合です。とはいえ、実際にこれをするのは大変です。プロジェクトのWebサイトを訪れる人たちにとっても、プロジェクトの管理者にとっても、何をどうしたらいいのか混乱してしまうことでしょう。しかし、少なくともプロジェクトのトップページにはRSSフィードを提供するようにしましょう。このフィードでは、リリース情報やセキュリティ警告といった重要な告知を配信します*4

Wiki

 Wikiとは、訪れた人が誰でもコンテンツを編集し、拡張できるWebサイトです。“Wiki”(ハワイ語で“素早い”とか“超高速の"という意味です)という用語は、Webサイトの編集ができるソフトウェアを指すものとしても使われています。Wikiは1995年に発明されましたが、2000年か2001年に人気が出て、Wikiベースな無料の百科事典であるWikipediaの成功がそれを後押ししました。Wikiは、IRCとWebサイトの中間的なものと考えればよいでしょう。Wikiは即時性がないので、自分が更新する内容について推敲できます。それでいて更新も非常に簡単なので、通常のWebサイトを編集するのに比べ、HTMLに悩む負担が小さくなっています。

 Wikiはまだオープンソースプロジェクトで標準的なツールになってはいませんが、多分すぐにそうなるでしょう。Wikiは比較的新しい技術ですし、人々はWikiをいろいろなやり方でまだ試しているところです。よって今の段階では、2、3警告をするだけにしておいて、Wikiの成功を分析するよりは、Wikiの間違った使い方を分析する方が分かりやすいでしょう。

 Wikiを使おうと決めたら、見通しの良いサイト構成にすることと、魅力的な見た目になるように特に力を注ぎましょう。これは訪問者(i.e.編集する可能性がある人でもあります)が無意識にどのように編集したらよいかが分かるようにするためです。同じく重要なのは、人々を誘導できるように、こうした見た目やサイト構成に関する基準をWikiに投稿しておくことです。よくあるのは、Wikiの管理者が、「多くの訪問者が高い品質のコンテンツを個別に追加してくれているんだから、こうした更新が集まったWebサイト全体も高い品質であるに違いない」という幻想に堕ちてしまうことです。多く更新されているからといって、Webサイトがうまく機能するわけではありません。個々のページや段落は、それ自体素晴らしいものかもしれませんが、全体が混乱したり、まとまっていないWebサイトに紛れ込んでしまうと、そうではなくなるでしょう。Wikiを使うと、次のような事態によく悩まされます。

  • 読者を誘導するルールが欠けている

 うまく構成されたWebサイトは、訪問者がいつでもサイト内のどこにいるかを分かるようにしています。例えば、ページがうまく設計されていると、訪問者は“目次”の部分と“内容”の部分を直感的に区別できます。Wikiのページを更新する人も、はじめからそういった区別がされていれば、それを尊重することでしょう。

  • 情報が重複している

 Wikiでは、更新を行う個々の人たちが、情報が重複しているかを気にしないので、似たようなことを述べている異なったページが複数存在することがよくあります。これは、上で述べた読者を誘導するルールが欠けていることとも重なる部分がありますが、情報が重複していると、訪問者は自分が期待するコンテンツのありかたを見つけられないかもしれません。

  • 対象読者が決まっていない

 これは、更新を行う人が多くいる場合にはある程度避けられない問題です。しかし、コンテンツを追加する方法の指針があれば、この問題で苦しむ可能性は少なくなるかもしれません。また、更新に関する指針が根づくように、はじめから例としてコンテンツをたくさん追加しておくのもよいでしょう。

 こうした問題に対する共通の解は同じです。編集に関する指針を作り、その指針をWikiに投稿するだけではなく、それに従ってページを編集することです。一般にWikiは、更新する人が自分が見るページのあらゆる傾向をまねてしまうため、もともと存在するページのあらゆる不備が全体に伝染してしまいがちです。Wikiをただセットアップするだけで、すべてうまくいくと期待しないでください。まずは、人々を誘導するテンプレートとなるように、よく練られたコンテンツを置いておかなければならないのです。

 うまくいっているWikiの良い例はWikipediaですが、これは、(百科事典の項目という)内容が本来Wikiのフォーマットとよく合っているからというのが理由の1つです。しかし、Wikipediaをよく調べてみると、管理者たちがお互いが協力するためにとても周到に準備をしていることが分かるでしょう。新しい項目を追加する方法、適切な観点で編集する方法、どのような編集を行うべきか、避けるべきか、編集合戦にまつわる論争を解決するプロセス(ある段階では、最終的な調停も含みます)、などにまつわる外部文書が存在します。

 管理者たちは、繰り返し不適切に編集されたページがあった場合に、問題が解決されるまでそれをロックできるようアクセス制御も行なっています。言い換えれば、彼らはWebサイトにページのひな形を書き込むだけで、うまくいくと思っていたわけではないということです。Wikipediaは、創始者たちが、どうしたら何千ものどこの馬の骨とも分からない人たちに、中立的な観点で記事を書かせることができるかを注意深く考えたからこそうまくいっているのです。フリーソフトウェアのプロジェクトでWikiを使うのに、これと同じくらい周到になる必要はないかもしれませんが、その精神はまねる価値があります。

 Wikiに関するさらに詳しい情報は、こちらを参照してください。また、世界で最初のWikiはまだ健在で、Wikiの運用に関する多くの議論が含まれています。さまざまな観点から、Welcome VisitorsWhy Wiki WorksWhy Wiki Works Notを参照してみてください。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

[3] 詳細はWhat Is RSSをご覧ください。

[4] このセクションは、書籍として出版された初版には存在しません。Brian Aker のブログのエントリ“Release Criteria, Open Source, Thoughts On...”を読んで、オープンソースプロジェクトにおける RSS フィードの有用性に気づいたので追記しました。


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