人はどうして内部不正・内部犯罪を行うのだろうか――今回はこの点について解説します。
不正のトライアングルとは?
犯罪学の基礎中の基礎として、不正を行う要素に次の3つがあります。
- 動機・プレッシャー
- 機会の認識
- 正当化
これらを「不正のトライアングル」もしくは「不正の3要素」と呼びます。この中で1つでも欠けていれば不正は発生しません。この考えは米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーが体系化したものです。彼は横領犯罪者に興味を持ち、犯罪者が誘惑に負けた環境に注目して研究を重ねていました。現在でも古典モデルとなっている職業上の犯罪者についての理論を発展させ、論文の「Other People’s Money : A Study in the Social Psychology of Embezzlement」として発表しました。この中での仮説が「不正のトライアングル」です。この重要な3要素について理解すれば、人がなぜ内部不正をしてしまうのかという心理の謎に迫ることができるを思います。
動機・プレッシャー
クレッシーによれば、犯罪にいたる動機やプレシャーは原則として「他人と共有できない問題に帰結する」といいます。彼はこの要素を6つのカテゴリーに分けています。
- 割り当てられた責務への違反
- 個人的な失敗による問題
- 経済情勢の悪化
- 孤立
- 地位向上への欲望
- 雇用者と被雇用者の関係
彼がこの研究成果を発表した時期は1950年代であり、その先進的な分析は驚くべきものです。
機会の認識
不正のトライアングルの仮説によれば、3要素がすべてそろわなければ犯罪行為が行われないと考えることができます。つまり犯罪の理由が、他人と共有できない経済的な問題だけであってもダメであり、そこに自分が逮捕されずにこの犯罪を行う機会があることを認識していることが必要になります。これが2つめの要素である「機会の認識」です。
現実的には次のような例が挙げられます。
- 伝票の起票者と再鑑者が同じ
- 現金を直接取り扱うにもかかわらず、チェック機能がなく、野放しの状態
- 内部統制機能が形式化している
- 内部検査者が親族である
- 業務フロー上にチェック機能が存在せず、単純に製造したものを出荷し、製造個数と出荷個数が乖離(かいり)してもその事実を知る体制になっていない
このような状況は、人間に「悪いことをしても知られるはずがない」という心の隙を生むことになります。
正当化
最後の要素が「正当化」です。この例としては次のものがあります。
- 先輩も周りの人も悪いことをしているから大丈夫だ
- なぜわたしは昇格できないのか? 会社は正当に評価していないからだ
- 女性ということだけで男性より年収が3割も低いのは違法行為だと思う
- こんないじめを受けるなんて会社全体が狂っている
- わたしの考えは正しい。逆に周りの人間がおかしいのだ。なぜ理解してくれないのか
これらは犯行を意識した人間が、犯罪に手を染める場合における「善意の心」に蓋をする最も有力な「行動理由」となっているケースが少なくありません。そして最後は、「だからわたしがこういう犯行をしても許されるのだ」と都合良く解釈し、取り返しのつかない行動へと移っていくのです。
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