速くなったIE9、FirefoxとChromeに勝てるか?
IE9のβ版を使ってみたが、旧バージョンよりもかなりよくなっている。FirefoxやChromeからユーザーを奪還できるだろうか。
アナリストは時に、Microsoftを典型的な「ファストフォロワー」と呼ぶ。新たなトレンドに気づき、それを取り入れる、あるいはつぶすために戦略を調整するのに長けた企業のことだ。その好例がInternet Explorer(IE)だ。1995年にデビューし、すぐにNetscapeを抜いて、当時緒に就いたばかりのブラウザ市場を制するに至った。
MicrosoftはIE普及戦略の一環として、Windowsに同ブラウザをバンドルしたが、これは何年にもわたる米当局との独禁法訴訟につながった。とはいえ、いち早くリードを確保したおかげで、IEは今も米国で最も使われているブラウザとなっている。近年はGoogle ChromeやMozillaのFirefoxなど野心的なライバルの登場にシェアを脅かされているが。
IE9の話に移ろう。年を取って太ったボクサーを戦える体型になるまで走らせるように、Microsoftは最新版IEを必要最低限にまで絞った。検索バーとアドレスバーは1つになり、透明なフレームはブラウザインタフェースではなく、Webを中心に置くためにデザインされている。簡素化されたインタフェースはChromeを思い起こさせる。悪くない。
Microsoftは、IE9はHTML5とWindows 7を活用してリッチコンテンツを高速に表示できるよう設計されていると主張している。9月15日のサンフランシスコのイベントで発表されたβ版は確かに軽く感じた。Windows 7を使っているユーザーは、Webサイトをドラッグして同OSのタスクバーに固定する機能や、ウィンドウを画面の左右にドラッグしてサイズを変える「Aeroスナップ」機能など、新しいブラウザ中心の機能が使える。前者の機能は複数のWebサイトを整理するのに便利だし、後者は2つのWebページを左右に並べるときに便利だ。
IE9はWindows Vistaでも使えるが、同ブラウザを使ってみたいというWindows XPユーザーは、残念ながらそれはできない。IE9は古いOSでは動かないようだ。これはMicrosoftのミスだったかもしれない。分析会社NetApplicationsによると、XPはまだ米国市場の60.89%を占めている。Windows 7は15.87%、Vistaは14%だ。
たとえこうした正確な数字を知らなくても――Windows 7が意外に早く旧版OSのシェアを超えると仮定しても――多数のユーザーがXPに依存し続けているという事実は変わらない。Microsoftはこれを認識しており、7月にはXPのエンドユーザーダウングレード権をWindows 7のライフサイクルいっぱいにまで延長すると決定した。さらに、2014年4月までXP SP3の延長サポートが提供されることも留意しておきたい。それを考えると、Microsoftがハードウェアアクセラレーションの問題などで、XPユーザーがIE8より後のブラウザを使えないよう完全に扉を閉ざすのは矛盾しているようにも思える。
だがIE9を使えるユーザーには、MicrosoftがWebをもっと手早く使える機能を提供している。ブラウザ上部の小さな「新しいタブ」アイコンをクリックすると、「Your Most Popular Sites」ページが開き、ユーザーがアクセスする重要なサイトの一覧が表示される。AppleのSafariにも似た機能はあり、「Top Sites」がサムネイル表示される。
ほかの便利な「スピード」オプションの1つが、「アドオンの管理ウィンドウ」だ。ブラウザのパフォーマンスを低下させているプログラムをユーザーが無効化できる。「Notification Bar」(「IEをデフォルトブラウザに設定しますか?」といったメッセージを表示する)は、ユーザーがメッセージに応答しなくてもWebサーフィンを続けられるようにする。
プライバシーを気にする人は、InPrivate Browsingを使って、後で見つかるような痕跡を残さずにWebを閲覧できる。レピュテーション(評判)に基づいて不審なサイトを判別し、ユーザーにポップアップウィンドウで通知し、推奨する対応のリストを表示するSmartScreenフィルターも内蔵されている。これと合わせて標準のIEオプションでプライバシーとセキュリティを調整できることから、MicrosoftがIE9を最も安全なブラウザに見せたがっていることは明白だ。もっとも、そうした改良がなされていても、最終的にはユーザーが自分のニーズに合っているかどうかを決めるのだが。
「デフォルトでは、IEはユーザーのプライバシーを尊重し、キー入力の内容を検索エンジンには送信しない」とIEのジェネラルマネジャー、ディーン・ハチャモビッチ氏は9月15日の記者会見で語った。「明らかに、アドレスバーはプライバシーを大切にしている」
では、IE9は高速だろうか? Microsoftは同ブラウザのグラフィックス処理と動画処理を高速化するために、PCハードウェア、特にグラフィックスプロセッサに依存する設計にした。「それがHD動画をスムーズにし、色を本物に近づけ、グラフィックスをクリアにし、Webサイトの反応を速くする」とIE9のWebサイトには書かれている。「新しいJavaScriptエンジンと組み合わせると、Webがコンピュータに直接インストールされたアプリケーションのように動く」
実際のところ――ベンチマークのスコアを知らないであろう普通の人々がどう実感するか――はどうかというと、IE9は速いと感じた。約1週間β版を使ってみたが、まだクラッシュもしていないし、特にリッチなWebサイトで止まったりもしていない。IEの旧バージョンでは、そうした問題はよく起きていた。IE9はわたしのように長くFirefoxやChromeを使っているユーザーを奪還してIEに乗り換えさせることができるだろうか? それはまだ分からないが、数日間使ってみたところでは、そのチャンスを与えてもいいと思っている。
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