三方一両「徳」の心得が必要? 共同購入型クーポンサイトの仕掛け人に聞いた:おせち問題にも言及(2/2 ページ)
2010年末にかけて注目が高まり、おせち問題が世間をにぎわせた共同購入型クーポンというビジネスモデル。日本市場に根付くには、消費者の信頼確立が求められる。実質半年ほどでクーポン共同購入サイトを事業化したCooPaの大木社長に現状を聞いた。
商材は審査の上掲載
既に述べたとおり、業界トップに君臨し、同種のサービスの代名詞にまでなっているグルーポンだが、「CooPaのユーザー層は、若い層の利用が多いグルーポンと異なる」と大木氏は見ている。ソーシャルグラフだけでなく、ぱどのフリーペーパーや情報サイトを通じて集客を図るCooPaでは、必然的にユーザーの年齢層が高いのだ。具体的には30〜40代が61%を占めていながら、10代のユーザーは1%しかいないという。「ぱどが握っている主要読者は主婦層。そこにターゲットを絞り、ファミリー向けのクーポンなどを展開できれば」。
とはいえ、家計を握る主婦は、値段だけでなく商品の信頼性にも一層シビアだと考えられる。いわゆるおせち問題のようなことがあっては、その信頼を得られない。
そのためCooPaでは、クーポンを提供する食事やサービスについて「審査部門を設けており、スタッフが実際に試食、試用した上で良いと思ったものしか掲載しない」という。また同じ商品の再掲載を要望された場合でも、「共同購入型クーポンの性格上、ずっと露出している商材は、顧客の不審を買うことも。そのため一定の期間を空けるようルール化している」という。
実は大木氏からすると「これは載せてもいいのでは」という商材であっても、運用を任されている桂巻氏が却下するケースもあるという(例えばライトな水商売系のお店など)。「彼女は信用、品質、安心を徹底的に追求するタイプの人間。自分とは正反対かも。Webサイトのデザインやクーポン紹介コメントにも桂巻の性格が表れている」と大木氏は笑う。実際CooPaのサイトデザインは、例えばグルーポンなどと比べて、シックなテイストでまとめられている。
店舗側のメリットは?
大木氏は、店舗が共同購入型クーポンを提供するメリットとして、大きく2つの要素を挙げる。1つは、クーポンを通じて来店した新規顧客に満足してもらい、リピートを狙うこと。ただし、初回来店時の利益は微々たる物となる(クーポンで割引しているのだから当然だ)。それでもリピーターが増えれば、利益につながるという考え方だ。
もう1つは、これまでテレビや雑誌、グルメ情報サイトなどにかけていた販促費を共同購入型クーポンに割くことで、費用対効果が見えるマーケティングを行えるということ。CooPaの場合は成果報酬型のビジネスモデルのため、掲載費は0円で、クーポンが売れた分だけ費用がかかる仕組み。CooPaの営業とともに商品設計(クーポン設計)をしっかりとやれば、店舗側のリスクも少ない。ここで無理をしてしまうと、店舗の利益を圧迫してしまうだけということになる。
どちらの場合でも、どの時期にどれだけの顧客が来店するかを見込みやすいというメリットが、店舗にはある。食材などの仕入れもやりやすいし、支払いもCooPaが肩代わりするかたちのため、「クレジットカード払いの顧客と比べると実質の入金が1カ月早く、キャッシュフローの改善も見込める」という。期末に向けたキャンペーンなどにうまく合わせれば、業績も計算しやすくなるだろう。
そもそも、巨大なPVを誇るクーポンサイトのトップページに露出すること自体が、店舗にとってはメリットだと考えられる。
従来はこれを、インプレッション広告として有償で実施していたわけだが、このことが既存のグルメ情報媒体の足かせになるのでは、と大木氏は見る。「広告を掲載した時点で売上が確定するモデルに依存したメディアが、アフィリエイト型の広告モデルに移行するのは大変なこと」。
バーゲンハンターは市場を破壊する
とはいえ、おせち問題をまたいだ2011年は、共同購入型クーポンというサービスが日本において成熟した市場を形成できるか否かが決まる年だと言えるだろう。大木氏は「クーポンサイト、店舗、顧客の3者が利益を上げられる構造が必要」と指摘する。「どこか1者が得をするモデルは市場を荒らしてしまう」。
例えば大木氏は、他のクーポンサイトが実施した金券の割引クーポンを問題視する。「iTunes StoreやAmazonで使える金券を売ってしまうと、そこには“バーゲンハンター”が集う。付加価値を無視して安いものだけ買う、という会員を多く抱えてしまうと、他の店舗が期待する属性の顧客を返せない」。リピーターになってもらうことを期待して利益度外視でクーポンを提供したのに、バーゲンハンターしか来なかったというケースが増えると、「共同購入型クーポンのビジネスモデルが崩壊する」。
CooPaの場合、主な誘導元は、ぱどの既存媒体だ。そのためバーゲンハンターが発生しづらく、「店舗が描く顧客像と、実際の来店者イメージが一致している」と大木氏は話す。ぱどの代表である倉橋氏からも、「店舗、CooPa、顧客は三位一体。CooPaだけが儲けることを目指すなら、それはぱどの事業ではない」と折にふれ言われているという。「強引な成長や利益を求める圧力がないため、プレイヤー全体の満足を考えながら事業を進められる。これがCooPaと競合サービスの違いだと思う」。
三位一体の成功を考えるぱどとCooPaの戦略からは、ビジネス上のしたたかさも感じられる。実際、情報誌を主要事業とするぱどは、(ポンパレの運営主体である)リクルートと、創業以来20年以上にわたって競い続けてきた。その戦いを通じてぱどは、リクルートのようにマスに展開するのではなく、地域密着型のサービスを謳うことで生き残ってきた。「リクルートと物量戦、消耗戦を繰り広げるつもりはない。CooPaに適した市場を確立したい」。
実際大木氏は、いずれリクルートのポンパレがマーケットを主導するのでは、と見ている。「グルーポンをもってしても、日本におけるリクルートの営業組織や顧客ネットワークと正面切って戦うのは厳しいのでは」。両者の競争を横目で見ながら「ぱどが強みを持つ主婦層、ファミリー層をしっかりと握りたい」。
大木氏は、おせち問題を契機にフラッシュマーケティングという手法そのものが批判されかねない現状に心を痛める。「そもそも、このビジネスモデル自体は、三位一体で受益できるはず。だがモラルを欠いた参加者がいると、業界を潰しかねない」。
CooPaおよびぱどは1月7日、審査部門が掲載基準を満たすと判断したクーポンのみを提供するという趣旨のプレスリリースを公開した。フラッシュマーケティングの市場を拡大するには、このようなリリースを確認せずとも消費者が安心して利用できるサービスとして、業界全体が成熟する必要がある。三方一両「徳」の心得で事業に取り組む必要があると言えるだろう。
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