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もう1つの放射能汚染、「劣化ウラン弾」の事実萩原栄幸が斬る! IT時事刻々

原発事故で深刻な放射能汚染が広がりつつあるが、世界にはその他にも深刻な放射能汚染の問題が存在する。人類がそれを「武器」として利用した劣化ウラン弾である。

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本コラムは、情報セキュリティの専門家・萩原栄幸氏がITとビジネスの世界で見落とされがちな、“目からウロコ”のポイントに鋭く切り込みます。


 原発事故の報道を見るたびに思い出されるのが、今も戦争で使われている「劣化ウラン弾」だ。日本ではあまり取り上げられることがないものの、本当は恐ろしい放射能汚染の可能性を伴う存在である。しかも事故ではなく、人間が好んで選択した「武器」である分、非常に怖いものだ。

 最近になって東日本大震災以降の原発事故の対応の遅れから、「放射能汚染された“わら”を食べた牛」が市場に出回っていた問題が取り上げられた。専門家であれば、当然ながらこういう事態は想定していたに違いないのだが、筆者はどうにも納得がいかない。これもまた「想定外」と片付けてしまうのだろうか。

 地震、津波、原発など二重苦、三重苦の被害を受けた人々に、さらなる苦悩を押しつける結果になってしまったことが、残念でならない。そもそも牛だけでなく、その近辺にいる人間はどうなのか。「半径○キロ」といったものではなく、より広範囲の全ての住民に内部被ばくの検査を行うべきではないのか。実はもっと恐ろしい事実が浮かび上がる可能性があるので、当局は少しでも先送りしたいのだろうか――そう考えると切りがない。そして、20年近く前から筆者が聞き及んでいる「劣化ウラン弾」のことを思い出さずにはいられない。

 筆者がこの事実を知ったのは、世界的に有名な報道機関に勤務していた友人からこの武器の事実を聞いたのが最初である。もう20年近くも前のことだ。本コラムを書く際に、ある程度の事実は確認できたが完全ではない。事実と推測の部分を極力書き分けるようにしたが、混在している可能性があることは事前にお断りしておく。

劣化ウランとは?

 通常、「劣化ウラン」とは天然ウラン鉱石などから、核燃料や核兵器などに必要なウラン235を取り除いたウラン238を主成分とする副産物であり、廃棄物となる。要するに“ゴミ”といっても過言ではないものだ。その処分に困り、世界中で劣化ウランの取り扱いが課題になっている。高速増殖炉はその“ゴミ”であるウラン238を燃料にする施設であるが、まだ途上にあり、商業稼働に成功したところはない。

 劣化ウラン弾は、その“ゴミ”を武器として有効利用しようとするものである。劣化ウランは比重が19であり、500ミリリットルのペットボトルの体積で約10キログラムに相当する。小さなコップ(180ミリリットル)でも約3.5キログラムもの重量だ。この重さを利用して、主に戦車の装甲を貫いて破壊する「装甲弾」として、1991年の湾岸戦争以降に大量に使われるようになった。

 それまでは、戦車の装甲貫通弾としてタングステンが利用されていた。そして、“ゴミ”としてしかも捨て場のない劣化ウランは価格が安く、タングステンより貫通能力に優れ、1200度で燃焼し大きな焼夷効果を出すとして注目されるようになった。貫通後に戦車内部で激しく燃焼し、戦車内部の電子機器を破壊して、兵員を確実に死亡させる。しかも劣化ウランは燃焼の際に粉じんやガスとなるので、人体や生物の中に取り込む危険が高い。

 その特性は、

  1. 重金属なので毒性を持つ
  2. 放射性物質であり、内部被ばくの危険(兵士など)を伴う

 標準的な劣化ウランの成分比は、WikiPediaの「劣化ウラン」によれば、ウラン238が99.8%、ウラン235が0.2%、ウラン234が0.001%である。通常は弾丸として素手で取り扱われる。

 劣化ウラン弾は、湾岸戦争やイラク戦争などで大量に使用された。装甲弾としては何万、何十万発以上といわれ、ある情報によれば、米軍は湾岸戦争で300〜400トン、アフガニスタンで500〜1000トン、イラク戦争で800〜2000トンの劣化ウラン弾を使用したとされている。

 これ以外にボスニアやコソボの紛争でも使用され、現在の劣化ウラン配備国は米国、英国、フランス、ロシア、中国、カナダ、スウェーデン、ギリシャ、トルコ、イスラエル、サウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、エジプト、クウェート、パキスタン、タイ、台湾、韓国に上る。ドイツは国策として使用しておらず、英国も将来的には使用しない方向に動いている。

問題点

 当初は、人口密集地である都市部などでは劣化ウラン弾の使用が避けられてきたが、現状では都市内部でも大量の劣化ウラン弾が使用されている。そのため、兵士を含めた一般の住民や特に子どもへの影響が大きいとされている。しかし、米国やWHOなどは「影響は未確認」とし、湾岸戦争症候群などの「奇形児の問題が化学兵器などによるものだ」と否定的な立場をとっている。

 だが現実は、劣化ウラン弾頭が着弾して劣化ウランが燃焼すると、酸化ウランの微粒子が発生して周囲に飛散する。これが体内に取り込まれた場合、内部被ばくや化学的毒性による健康被害を引き起こすことは間違いない。WHOなどはその被害をせいぜい数十メートルとしているが、現実にはこの種の情報を知らない現地の子どもたちが、鉄くずになった戦車の残骸を格好の遊び場として毎日のように触れている。奇形児の発生率がそれぞれの戦争場所で極めて高いという事実も、単に化学兵器の影響と決めつけるのは時期尚早ではないだろうか。

 また米国兵士の間でも奇形児発生率が高く、劣化ウランの影響ではないかと提起されているが、その因果関係が特定されていない。ただ、例えば2003年に劣化ウラン弾による被ばくと思われる異常値の検出が兵士の9割に上ったという事実が存在する。

 イラクの都市部では劣化ウランのために土壌や地下水が汚染されているという事実が公表されている。これも、「その調査は不完全だ」と否定されており、事実はうやむやとなったままだ。実際にはウラン鉱山にあったウランが大気中に拡散し、土壌の中に入り込み、地下水の中に入り込んでいく。これは事実なのである。

 戦車などの装甲を貫く弾丸や「バンカーバスター(地中貫通爆弾)」は、核兵器が事実上使えない状況下では大きな戦力となった。その弾芯にタングステンが使われているが、その主要産地が中国なので、多くの国が政情や経済状況になるべく左右されることなく自国を含めた複数のルートから安価で安定的に入手できる代替品を探していた。特に武器の製造や供給が政治や経済いかんでできなくなるのは防衛上極めて不利になるからである。こういう状況下で年々高騰しているタングステンの代替として、世界中の厄介者である低レベルの放射性廃棄物の利用を考えたのである。そして、あまり考えたくないが「敵国に多少の放射性物質をばらまいたところで何が悪いのだ」という感情から罪悪感が薄くなっていったのではないだろうか。劣化ウラン弾は、こういう複雑かつさまざまな局面から作成された「負の生産物」と言えるのかもしれない。

 日本ではいつものことながら、この劣化ウラン弾問題の取り扱いは極めて薄く、世間の誰でもが認知しているとは到底言えない状況である。一部のジャーナリストやマスコミが取り上げてはいるが、その「事実」を広く国民に認識してもらうほどに重要な問題だと筆者は考えている。

 ただ、権威のあるさまざまな機関が「検証は不充分」「奇形児問題は化学兵器の可能性方が高い」という公式見解であるならば、速やかに米国政府など劣化ウラン弾保持国が本格的な調査をすべきだろう。劣化ウラン弾を使用した地域の住民や帰還兵の健康、そして環境への影響を徹底的に調べて公表すべきだ。

 劣化ウラン弾は、本来は厳重管理すべき低レベル放射性廃棄物をこれでもかと思うくらいに大気、土壌、地下水などに拡散させた。どうみても内部被ばくなどの影響が起こり得るとしか思えない。戦場では、もしかすると取り返しがつかないほど危険なこの「武器」を1発や2発というレベルではなく、少なく見ても何百万発以上も使用してきた。劣化ウラン弾を使用した国は、その責任をとるべきではないだろうか。

 筆者は放射線について、まだ人類がその制御を完全にできているわけではないと感じる。かつて、「原子力発電」は夢のエネルギーと言われた。だが筆者が40年ほど前の高校時代に驚いたのは、結局そのエネルギーで水を水蒸気にしてその力でタービンを回すだけのこと――なんだ! 蒸気機関と同じじゃん!――だった。しかも、その制御はまだ完璧ではなく、放射線を完全にカットできるものすらないので常に危険がつきまとう。制御棒でいかにもコントロールしたように見えるが非常に原始的な手段だ。たぶん、100年後の人類が現在の状況を見たら「なんて非科学的な方法でしょう。放射線自体を制御しないとまずいでしょうに……」と話しているかもしれない。以前からそうした原子力のあやうさを感じたものだった。

 研究段階のものを商用に使うのはいかがなことか。もっと政府が基礎レベルからの研究に資金を投じ、最低でも「万が一の場合にはこのボタンさえ押せば全てが完全停止(発熱も、核反応も、放射線放出も全て止まる)するので、安全です!」という技術レベルにまで、研究者が競いながら向上させていくべきだ。原子力は現状ではリスクが大き過ぎる。

 半減期が46億年の放射性物質もこうすれば放射線が全く出なくなる……そんな技術が実現していれば、劣化ウラン弾のような問題も起きなかったのかもしれない。そんなことを夢に思う今日このごろである。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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