クラウドは“魔法の杖”か? 海外に学ぶ現実的なBCP対応(1/3 ページ)
企業の事業継続計画や災害対策において、果たしてクラウドコンピューティングは有効なのか。A.T. カーニーの戦略ITグループ プリンシパルが事例などを基に意見を示す。
未曾有の大震災の経験によって、多くの日本企業がBCPを再検討することとなった。東日本大震災に関して、「想定外」や「1000年に1度」といったキーワードが使われているが、被害の大きさとその発生確率からこのリスクに対応しようとすると、現実的ではない規模の装備が必要だという結論になってはしまわないかと危惧する。
逆にその反動で、「クラウドコンピューティングをBCPに活用することがこの状況を変える」というように、クラウドを“魔法の杖”であるかのように扱う議論も素直に賛同しにくい。
本稿では事例を交えて、クラウドをBCPに活用するとはどういうことかを冷静に考えることで、現実的なBCPの実現方法を考える契機になればと考えている。
“想定外”の事態に必要なものとは
今回の震災をきっかけに、BCPを見直す企業が増えているのは既に述べた通りだ。同様に、海外でも未曾有の事件によってBCPが再検討された時期がある。2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロの時だ。
その1年前、2000年問題を契機に見直されていたはずのBCPが、結局役に立たなかったという事態が発生した。システム、プロセス、社員、ビジネスに関するプランの前提となっている「状況」が、テロにより一変、想定外となった。
- 社員の多くが、亡くなったり、精神的なショックを受けたりして、機能しなくなった
- IT部門や危機対応チームなど、事前に決めていたリカバリープランを把握している社員がいなくなってしまった
- 通信手段が制限されたり、遅延したりした
これらは、東日本大震災の際の状況とも共通する。携帯電話、固定電話とも通信が制限されてしまったため、社員の無事を確認するのも手間取った企業が多かった。一方で、インターネット経由の連絡網を使って、迅速にコミュニケーションを確保していた企業もあると聞いている。
実は筆者自身は震災当日に東北周辺にいたのだが、会社と連絡を取ろうするも携帯電話はほとんどつながらず、インターネットを使ったコミュニケーションを活用していた。
ローソンが震災当日に対策本部を設置するなど素早い対応を取ったことは既にさまざまなメディアで紹介されているが、これも、社長勅命で任命された災害対策チームが、迅速に判断し、かつそれを必要な組織に指示できたからこそ成功している。
これらから想定外の事態に対応するためには、次の2つがキーになる。
(1)緊急時に迅速対応できる人材、あるいは、その人材チームを迅速に組成する組織的な対応
(2)(1)を実行に移すために必要な通信手段の確保
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