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クラウドでゲームのルールを変え、国内企業の良きパートナーに――グーグル2012年 それぞれの「スタート」(1/2 ページ)

IT調査会社のガートナーやIDCは2012年の注目すべきキーワードとしてソーシャルやモバイル、そしてクラウドを挙げた。その中心となるプレイヤー、すなわちグーグルは、エンタープライズ市場においてどのような存在価値を示すのか。同社エンタープライズ部門の責任者 阿部伸一氏に聞いた。

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――2011年の振り返りをお願いします。

 私がグーグルに入社したのは2月のこと。当社の会計年度は1月始まりですから、ちょうど1事業年度にわたり、エンタープライズ部門を見てきたことになります。当初は設定された事業目標に対して「こんなに高いものなのか」という印象を持っていましたが、結果としては、ほぼ全ての目標を達成できました。

 エンタープライズ事業にはいくつかの柱がありますが、例えばGoogle Appsについては「メジャーな、保守的な企業も導入しているんだ」と市場に印象付けていくことを目指しました。クラウドはアーリーアダプタだけのものでも、中小企業だけのものでありませんから。

 先ほど目標を達成できたと述べましたが、山登りに例えると「見下ろせば随分と高いところまで登ってきたな」と感じています。同時に、地上にいた時には見えなかった、雲の上にあるさらに高い頂が、見えてきたところです(笑)。

 私自身、まだ山を登り慣れたとは言えませんが、ここにきてマーケットを俯瞰できるようになり、ランドスケープが見えてきました。その中には、登山道ではない険しい道を上っている人(企業)もあるように思います。

――具体的には、市場のランドスケープをどのように捉えていますか。


グーグルのエンタープライズ部門でマネージングディレクターを務める阿部伸一氏

 クラウドについては、各社各様に定義しています。だから顧客に訴求するポイントもバラバラです。クラウドの形態にはパブリックとプライベート、それらを組み合わせたハイブリッドがありますが、パブリックを標榜しつつも、実はそうではないサービスもあるようです。

 ですが人間は慣れてくると、それらをカテゴライズできるようになります。ベンダーだけでなくユーザー自身が「こういうビジネス上の課題を解決するには、このようなクラウドを利用すればよい」という判断ができるようになりました。

 ベンダーの立場では、自社のソリューションで囲い込もうとしがちです。「ウチはあらゆるモデルのクラウドを提供できるから最高ですよ」という訴求の仕方になってしまう。ですがカテゴライズできるようになれば、自社のソリューションを強引に良いものとしてアピールするのではなく、課題をサービスにマッピングした上で、できることとそうでないことを、客観的に伝えられるようになります。

 そうすることで、かえってユーザーからの信頼を得られます。グーグルも物売りではなくアドバイザー、最終的にはユーザーのパートナーとして受け入れられています。クラウドも「色もの」ではなく、真に必要なサービスとして使われるようになりました。

 グーグルの他のサービスを見てみましょう。15年前にはグーグルの検索エンジンも、地図サービスもありませんでしたが、現在はなくては困るサービス、パートナーになりました。クラウドの市場も、これと同じ状況になりつつあります。同時に、顧客の課題を解決できないクラウドの淘汰も進むでしょう。

 クラウドにデータを預ける危険性が議論されることもあります。ですが貯金をする時、お金を家に置くでしょうか。それとも銀行に預けるでしょうか? クラウドは既に、良い意味でのコモディティ化が進んでいるのです。

――クラウドのコモディティ化が進み、エンタープライズITのプレイヤーにも顔ぶれに変化が生じました。これからの企業システムを論じる際、グーグルやアマゾンは欠かせません。

 2012年、グーグルはエンタープライズ市場で3つのプレゼンスを示します。それはGoogle Appsと、エンタープライズサーチ、そしてジオスペーシャルサービス(空間情報サービス。ここではGoogle MapsやGoogle Earthを指す)です。その活用領域はさらに広がります。

 例えば先日、Google AppsでもGoogle+を利用できるようになりました。また国外ではすでにChromebookを提供しています。

 もう1つの重要な柱は、Google App Engine(GAE)です。これまで我々はアプリケーションを提供してきましたが、加えて価格競争力があり、世界最高水準のセキュリティを備えたPaaSを、SLAを保証して提供しています。

 今後グーグルは、プラットフォームビジネスを強化します。ボトムにAPIを用意し、その上でアプリケーションを稼働させ、Android端末やChromebookなどのデバイスを提供します。もちろんサービスやアプリケーションはデバイスフリーで利用できるようにします。この全てが可能なのはグーグルだけだと考えています。

 グーグル自身もアプリケーションを用意しますが、GAEで業務アプリケーションを提供したり、Google Appsの機能拡張を提供したりしている外部パートナーも多くいます。従来は難しかった、個別の顧客向けにカスタマイズしたアプリケーションを提供することも、GAE環境なら可能です。

 しかしこれだけなら、オンプレミスのソリューションを中心とする他社でも可能でしょう。グーグルのサービスの特徴は、あらゆるアプリケーションとデータをクラウド上に置くということです。ユーザーの環境に設置されていたサーバやアプリケーションを別の場所にリロケートしただけでは、クラウドとは言えません。我々は徹底したクラウド化によって、リアルタイム性とコスト削減、そしてセキュリティを担保します。

――震災後、オンプレミスよりクラウドのほうがデータを冗長化できるのでは、という見方も広がりました。

 クライアントにデータが分散していることで、ビジネスにタイムラグが生じているのなら、クラウドにデータを集中してリアルタイムに管理し、無駄な時間を減らすべきです。経営層からみると、現場のスピードが速くなり、かつ“見える化”されますから、意思決定に迷いがなくなります。

 同時に我々は、ユーザーに対してクラウド原理主義ではありません。例えば自家発電設備を備えた工場については、そこに生産管理のシステムを置いたほうが、電力やネットワークが被害を受けても生産を継続できますよね。重厚長大な基幹系ITが光る部分もあるのです。

 他のベンダーやシステムインテグレーターを、単純にコンペとは捉えていません。クラウドかオンプレミスかのゼロサムの選択ではなく、どう連携するかを意識しています。

 要は、グーグルが得意とする部分はグーグルに任せてもらって、ユーザーには、事業のコアコンピタンスにフォーカスしてもらうということです。ユーザーが望むなら、グーグルは全てを提供できるし、そうでないなら、他のソリューションを上手に組み合わせてほしいですね。我々は常にオープンです。黒船ではありません(笑)。

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