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アプリケーションの存在感薄らぐ アナリストはこう見るSAPPHIRE NOW 2012 Orlando Report

ガートナーのリサーチ部門でエンタープライズ・アプリケーション担当の本好氏に、今年のSAPPHIRE NOWについての見解を聞いた。

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注力分野ながらもフォーカスが弱い

ガートナー ジャパン リサーチ部門 エンタプライズ・アプリケーション担当 リサーチ ディレクターの本好宏次氏
ガートナー ジャパン リサーチ部門 エンタプライズ・アプリケーション担当 リサーチ ディレクターの本好宏次氏

 私が担当するアプリケーション領域の視点から独SAPの年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2012」を全体的に振り返ると、大きく3つの印象を持ちました。1つは、2010年にビル・マクダーモット氏とジム・ハガマン・スナーベ氏の共同CEO体制になった際に打ち出した戦略を、変わることなく着実に進めていることです。目新しい動きを見せるのではなく、戦略ロードマップの進ちょくをきちんと報告しているといってもいいでしょう。

 2つ目は、クラウドやモバイルといった新規ビジネスの話題が中心で、創業以来、長年にわたり主力だったERP(業務統合パッケージ)やビジネスアプリケーションについてはあまり触れられませんでした。SAPが注力する5つのマーケットカテゴリ、すなわち、「業種・業務別アプリケーション」「分析」「データベース&技術」「モバイル」「クラウド」の中で、展示会場にアプリケーションの大カテゴリエリアがなかったのも気になりました。SAPの多くのユーザーが業務アプリケーションを導入していて、それに関する足元の課題で悩んでいるため、注力分野の方向性と現場のかい離が見られます。

「SAPPHIRE NOW 2012」でSAPが発表した戦略
「SAPPHIRE NOW 2012」でSAPが発表した戦略

 それに関連して、3つ目はSAP RDS(Rapid Deployment Solution)についてです。今回、SAPは上述した5つの注力分野をインメモリコンピューティング「SAP HANA」が基盤として支え、それを業種・業務ごとにRDSという形態で提供するという戦略発表を行いましたが、肝心のRDSに対して説明不足の感は否めません。RDSはアプリケーションにかかわるものであり、アプリケーションに対するフォーカスの弱さを感じました。

 RDSとは、企業規模にかかわらず広いセグメントの顧客に対して直販およびパートナー経由で提供する早期ソリューション導入パッケージですが、中堅企業向けのERPパッケージ「SAP All-in-One」の中に「FAST-START PROGRAM」というパートナーによる導入サービスがあり、両者の違いを認識していないユーザーは多いのです。全体のサービス戦略の中にRDSを持ち出しているものの、ユーザーに対してアプリケーション分野をどう進展させるかというメッセージが少なかったです。

ソーシャルやクラウドはまず整備を

 次に、Gartnerの視点でSAPの戦略を分析します。Gartnerは「the nexus of four IT forces」(4つのITフォースの結合)として、クラウド、ソーシャル、モバイル、インフォメーションを重視しています。このキーワードはSAPの注力ポイントとほぼ共通します。

 ただし、ソーシャルについては現段階では分散しています。企業向けコラボレーションツール「SAP StreamWork」、CRM(顧客関係管理)ツールのSaaS型サービス「SAP CRM On-Demand」のTwitter連携、今年2月に買収完了した米SuccessFactorsの企業向けソーシャルメディアツール「Jam」など、手駒は多くありますが、あまり一貫性はありません。加えて、ソーシャル事業に関しては、数カ月前にバイスプレジデントが担当に就いたものの、まだ明確な方向性は打ち出されていません。

 同じく新規分野であるモバイルやインメモリ、クラウドにおいてはボードメンバーが担当となって、今回のカンファレンスでも強力なメッセージを発信していました。

 Gartnerでは、「ペースレイヤアプリケーション戦略」という考え方も唱えています。これは、アプリケーションをその使用状況と変更のペースに応じて分類し、異なる管理プロセスとガバナンスプロセスを確立するための新しい方法論で、「記録システム」「差別化システム」「革新システム」という3つのカテゴリレイヤから成ります。

 この考え方をSAPに当てはめてみましょう。記録にあたるのがERPです。多くの企業にとって標準的なものであり、基盤となるシステムです。ここはほとんどの企業に存在し、システム上のさまざまな課題を抱えている部分になります。

 今回のカンファレンスで話題の中心となったクラウドは差別化、モバイルやアナリティクス、データベースは革新にカテゴライズされます。これら3つのレイヤをいかに統合していくかが重要で、実はその役割を果たすのがRDSなのですが、繰り返し述べるように、それをどうしていくかという明確なメッセージは届いていません。

 今後、SAPはRDSについて詳しくユーザーに説明する必要があります。また、SuccessFactorsの買収によって、クラウドサービスのラインナップが増えましたが、SAPが持つ既存サービスとの重複も見られます。これを整備して今後のロードマップを示すことも重要でしょう。(談)

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