セキュリティ市場の競争に一手を打ったトレンドマイクロの狙い
SSLサーバ証明書サービスを開始するトレンドマイクロ。後発ながらこの分野に参入する背景にはどんな狙いがあるのか。グローバルビジネス担当役員のワイエル・モハメッド氏に聞いた。
トレンドマイクロは6月18日、SSLサーバ証明書ビジネスに参入すると発表した。この分野では米Symantec傘下の日本ベリサインやGMOグローバルサインといった老舗ベンダーが高いシェアを持ち、トレンドマイクロは後発に当たる。参入の狙いをエグゼクティブバイスプレジデントのワイエル・モハメッド氏に聞いた。
モハメッド氏は、トレンドマイクロが2009年に買収したネットワークセキュリティベンダーThird Brigadeの経営責任者で、買収後は国内事業を担当する大三川彰彦 取締役副社長とともに、法人向け事業や海外事業を担当。Third Brigade以前はEntrustで要職を務め、SSL関連事業でも豊富な経験を持つ。
同氏は、「ユーザーと企業を信頼でつなぐというのがSSL証明書の理念。このビジネスが本格化した10年前は市場がまだ大きくなかったものの、スマートフォンやクラウドの普及でようやく当初の理念が市場から求められる時代になった」と語る。
SSLサーバ証明書は、主にオンラインサービス提供企業(サイト運営者)の身元が信頼できる存在であるかを、第三者が審査してユーザーに示す手段として利用されている。急拡大するスマートフォンユーザーにサイト運営者が自社サイトの信頼性を示したいとのニーズが高まると期待され、ウイルス対策ソフトで実績のあるトレンドマイクロがサイト運営者を適正に審査することに、同社が参入する意味があると、モハメッド氏は強調する。
また、新サービスではこれまでの証明書の発行枚数に応じて費用が発生するというビジネスモデルとは異なり、発行枚数に関係なく定額で利用できるというモデルを導入。モハメッド氏は、「コストが高く、すぐに利用できないという課題があった。この課題を解決することも当社のミッションだ」と述べている。
だが同社にとって新サービスは、単独事業として推進する以上に大きな意味を込めているようだ。サービス発表会の場で大三川氏は、同社がクラウドコンピューティングや仮想化環境のセキュリティ分野に注力している点やITベンダー各社との提携関係に触れた。同氏によれば、特にITインフラを手掛けるパートナーから、トレンドマイクロがSSLサーバ証明書のビジネスに進出することを期待されていたという。同社のITインフラ向けセキュリティポートフォリオに必要なものであったとみられる。
「SSL証明書はブラウザとサーバを橋渡しするパスポート。当社はIBMやHP、Dell、VMware、Citrix、Microsoftといったインフラベンダー各社とセキュリティ分野で密な関係を築いている。各社が当社に求めるのは独立専業ベンダーとしての技術やノウハウ、ソリューションだ」とモハメッド氏はいう。
セキュリティ市場の再編劇では2010年のSymantecによるVeriSignの認証事業の買収(日本ベリサイン買収を含む)や、IntelによるMcAfeeの買収が大きな転機となった。2012年はSymantec、McAfeeとも新たな事業体制を本格始動させつつある。競合他社のこうした動きの中で、トレンドマイクロが打った新規事業という一石は、一見して小さいようだが、同社の今後のビジネスを占う意味では大きなものとなりそうだ。
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