【第1回】このままでトップラインを伸ばせると思うな:顧客マネジメント再考(2/2 ページ)
長らく日本企業はコスト削減をはじめとする“守りの経営”に徹してきた。しかし今、反転攻勢をかける時が来た。新連載「顧客マネジメント再考」では、利益創出のための新たなCRM戦略を議論する。
新たなCRMが企業を生き返らせる!
顧客接点を強くすることがこれからの企業競争力の重要なCSF(Critical Success Factor)であり、戦略性を持って推進するためには統合的な顧客マネジメントの手法が必要になってくる。今やWebによるコミュニケーションにとどまらず、爆発的に拡大したSNS(Social Network Service)やiPhoneに代表されるスマートフォン、タブレットなどのモバイルデバイスの急速な普及などによって、顧客にいつでもどこでも直接接点を持てるようになった。逆を言えば、それだけ顧客との接点が多くなっている中で、企業側の顧客マネジメント戦略が不十分だと、顧客からその対応に不満を抱かれ、あっという間に企業にマイナスの評判(Reputation)が伝播することになる。
デジタル技術の進展により、特にマーケティングにおいて“個”を特定できるようになった。例えば、従来は流通チャネルから先のエンドユーザーの情報は全く把握できなかった企業が、顧客情報や購買情報などを直接入手し、それを戦略立案に生かせるようになった。一方で、企業からの顧客アプローチを的確に行わないと事業上のリスクになる可能性もはらんでいるのだ。
このように、事業遂行上のメリットとリスクを併せ持ち、他社よりも具体的に顧客にアプローチしていかねば勝ち残れない時代になったともいえる。それに対応すべく、あらゆる顧客接点をプロセス上で獲得し、複雑化、個性化する顧客に対して、常に魅力的なアプローチをタイミングよく仕掛けていく。顧客の獲得にとどまらず、購買、利用を継続してもらうためのアフターサービスなど、顧客の維持にも今まで以上に尽力する。言葉では簡単だが、実践するのは並大抵のことではない。まして、企業規模が大きいほど顧客との距離が離れている場合がほとんどである。
こうした課題を解決するのが、従来のアプローチとは異なる新たなCRM(顧客関係管理)戦略だ。これまでのCRMは顧客満足度の向上を目標としていたり、購買実績などの事実データと、性別、年齢、職業、住所などデモグラフィックな情報からの顧客セグメンテーションを中心とした施策展開に終始していた。その結果、売れたか売れないかといった結果だけを指標としたマネジメントだった。“顧客第一”と言いながら、結局は企業側の売り上げ第一主義が幅を利かせていた。そのため、顧客を継続的に固定化することが難しく、施策の成果が長続きせず、膨大な費用をかけて、いろいろなマーケティングアプローチにチャレンジすることを繰り返していたのである。
そうではなく、顧客の深い理解に基づき、ビジネスのあらゆる場面で顧客と共感し、双方でビジネスを成長させ、顧客とともにビジネスを共創していくような考え方とその実践を目指すとともに、顧客マネジメント力を高めていく取り組みが求められているのだ。
単にWeb対応を向上させたとか、コールセンターでの満足度を上げたとか、モバイル対応の部署を設置したというような施策ドリブン型ではなく、統合的にマーケティングから、営業、そしてサービスに至る顧客接点プロセス全体をマネジメントする顧客経験型の戦略が重要といえるだろう。
次回は、この新しいCRM戦略を具体的に解説する。
著者プロフィール
中本雅也(なかもと まさや)
アビームコンサルティング株式会社 CRM統括事業部長 執行役員
情報機器メーカーにて製造業、流通業、サービス業等に対するシステムコンサルティングの実績及び営業として4期連続トップセールスの経験を持つ。1999年よりコンサルタントに転じ、製造・流通業をはじめ、サービス、金融、電力・ガス、鉄道、官公庁などのお客様に、事業戦略、M&A戦略、業務改革など約230以上のコンサルティングを実施。またCRM分野の第一人者であり、数少ない経営実務と実際の現場の双方を知り尽くしたコンサルタントとして、顧客マネジメント、営業マネジメントを中心としたコンサルティングに定評がある。その他、講演、各種団体・大学院等での講義、取材、執筆などでも活躍中。
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