中央大、学生4500人が私物PCで利用する“バーチャルPC室”構築の舞台裏:導入事例(2/2 ページ)
学生が私物のPCやタブレット端末から学内のICT環境を利用する――そんな仮想デスクトップクラウド環境を中央大が構築。システム構築の舞台裏を同大副学長に聞いた。
ログイン時間が10分の1に アプリケーション配布手順も簡素化
同大は既存システムの更新時期に合わせ、2012年前半にシステム刷新の検討をスタート。仮想デスクトップクラウド基盤には日本IBMの統合ITインフラ製品「IBM Flex System」、クライアント仮想化ソリューションは米Virtual Bridgesの「VERDE」をそれぞれ採用した。
製品選定に当たっては、LinuxとWindowsのマルチプラットフォーム環境を「唯一提案してくれた」(加藤教授)日本IBMが勧める構成を採用したという。特に、Flex Systemについては「できるだけ長く使うことを想定し、基本スペックやネットワーク性能の高さを評価して採用を決めた」と振り返る。
その後、同大後楽園ITセンターに常駐して運用サポートを行っているシステム開発会社のSRAとともにシステム構築を開始。事前の設計作業を日本IBMを含めた3者で入念に行ったことが奏功し、実際のシステム構築作業は12年12月からの約4カ月で完了。13年4月1日の新学期から本格稼働にこぎつけた。
新システムの導入成果はすでに現れている。従来なら4〜10分程度かかっていた仮想デスクトップへのログイン時間を45〜60秒程度に短縮したほか、WindowsとLinuxのOS切り替えもスムーズに行えるようになった。サーバからの画面転送時の遅延もほとんどなく、3Dモデリングなどの特殊処理を除けば「仮想デスクトップであることを意識せずに利用できる」(SRAの永井賢太 ネットワーク運用部主席)という。
また、アプリケーション配布手順も簡素化できた。中央大情報環境整備センターの山田伸一氏は「教員から授業直前に『このソフトを使うから入れておいてほしい』と依頼されることもあるが、従来のシステムではアプリケーションを一斉配布できず、急な対応が難しかった」と振り返る。新システムでは1つのアプリケーションイメージさえ作成しておけば、翌日の起動時から全端末で利用できるようになったという。
どこからでもアクセス可能な“バーチャルPC室”構築へ
中央大は今後、実習室内の端末だけでなく室外のPCや、学生の私物PCからも仮想デスクトップ環境にリモートアクセスできるようにする予定だ。すでに教員向けには同様の仕組みを提供しており、教員が作った電子教材と実習室のPC環境との互換性確認などに役立っているという。
リモートアクセス環境のセキュリティ対策としては、学内ネットワークにゲートウェイ型のウイルス対策製品を導入しているほか、ユーザーのログイン画面でもID/パスワード認証を行った上でVPN接続する方法を採用した。
また、アプリケーションのライセンス体系は事前に1つ1つ確認し、端末単位ではなくユーザー単位のライセンスを採用しているソフトなどに絞ってリモート配信するという方式を採用。これにより、ライセンス数増大によるコスト増などのリスクも抑えているという。
新システムはPCだけではなく、モバイル端末からのアクセスにも対応する計画だ。「いまや、学生たちの多くはスマートフォンやタブレットを学内で持ち歩いている。今後は数百人規模の同時アクセスにも耐えうる学内ネットワーク環境なども取り入れつつ、そうしたモバイル端末からも学内のICT環境を利用できるようにしたい」(加藤教授)
加藤教授は、リモートアクセス環境を学生向けに提供すれば「実習室のPCの“取り合い”が解消されるだろう」と見込む。また今後は、海外留学中の学生が仮想デスクトップクラウド経由で実習などに参加し、海外から単位を取得できるような仕組みづくりも検討していくという。
「これまでも学生の海外留学を強く奨励してきたが、単位が取れず卒業時期が遅れてしまうことを恐れて踏みとどまってしまう学生も多かった。今後、仮想デスクトップクラウドの提供に合わせて授業制度も変えていけば、学生がどの国に留学していても心配なく単位を取れるようになるだろう」(加藤教授)。中央大は今後も、仮想デスクトップクラウドの活用を推進していく考えだ。
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