【第1回】なぜ私はCCOになったのか:VOYAGE流・企業文化構築プロジェクトの全貌(3/3 ページ)
ネットベンチャー会社から永続的に事業成長する企業へ飛躍する――。「ECナビ」で知られるVOYAGE GROUPが企業文化を変革する一大プロジェクトに取り組んだ。本連載では、その指揮官である青柳取締役がプロジェクト成功の要諦を語り尽くす。
「コーポレートカルチャー室」を新設
とはいえ、経営理念が浸透してない状態でもそれなりに事業は成長していましたし、浸透していないことによる具体的な問題が顕在化していなかったため、社員にとって経営理念見直しの納得度は低かったのではないかと思います。しかし、事業が伸びているときは感じなくても、事業が伸び悩んだ時にこそ組織的な弱さというものは浮き彫りになるはずなので、先手を打つ必要があったのです。
ただし、まだ具体的なものがない中で経営理念が浸透した状態を説明していくというのはとても難しいことです。「確かに今の経営理念は分かりにくいけど、変えて社内に浸透したら一体何が良くなるのかも分からない」などという声も幾度も耳にしました。役員という立場で「必要だから」と押し切ることもできますし、具体的なものがないからと説明自体をやめてしまうのもできますが、それは本質的な解決にはなりません。
そこで、継続的に企業文化を強化していくことをミッションとした「コーポレートカルチャー室」という部署を新設し、そこに当時営業でエースだった社員を専任で置きました。振り返ってみると、そのことが大きな意味を持ったように思います。
当然、経営理念の見直しにおいて、現場の声を多く拾っているつもりでしたが、その社員が専任になったことで、より多くの意見を社員から集めることができました。また、その専任者が経営陣と目線を合わせたことや、企業文化創造の背景までを幅広く説明できるようになったのは大きな価値がありました。何より、私自身が何度となくその社員に救われました。
「説得」ではなく「納得」
さて、経営理念の見直しはどのように進めていったのでしょうか。前述したように、以前は「VISION」(目指すべき方向性)と「CREED」(価値観)を経営理念のパッケージとしていました。そこで、まずはCREEDをリニューアルすべくプロジェクトを立ち上げるとともに、VISIONについては必要かどうかを含め経営陣で再考することにしました。
CREEDリニューアルプロジェクトは、全社アンケートで社員一人一人が大切にしたい価値観について思っていることを出してもらい、その結果を基に参加希望者を募りました。選出されたプロジェクトメンバーをいくつかのチームに分け、議論を深めていきました。より意見が言い易い雰囲気にしたかったため、事業責任者を除いたチーム構成とし、それとは別に事業責任者だけのチームを作りました。
各チームで議論されたことやアウトプットは、プロジェクトの進ちょくとともにすぐに全社に共有するようにしたのですが、それらに対して「そもそもCREEDをリニューアルする必要があるのか」という質問や、「アンケートで出した案が議論されていない」など、さまざまな意見が出てきました。意見をくれた社員に対して、コーポレートカルチャー室のメンバーと、時には一緒に、時には別々に、ミーティングだけではなくランチや飲み会の場も使って、ひたすら話し合いました。
あくまでも「説得」ではなく「納得」してもらうことを前提に、粘り強く話し合いの場を持ちました。時間がかかるプロジェクトの進め方だとは十分に理解していましたが、会社にとって一番コアになる経営理念を、社員自身が考え、作っているということをどうしても感じてもらいたかったため、この進め方以外はあり得ませんでした。
一方、経営陣でVISIONについての検討を重ねていましたが、最終的に、VISIONをなくし、「SOUL」(創業時からの想い)というものに変えました。それまでのVISIONが十分に浸透していないというのがきっかけではありましたが、VISIONの性質上、フワっとした抽象度の高い表現になってしまうことでの浸透度の低さや、仮に具象度が高い表現だとしても、VISIONというものが新しい挑戦への足かせになってしまうのではと考えたからです。
こうして、SOULとCREEDをパッケージとした新たな経営理念が生まれました。これらは、採用や評価をはじめとする人材の軸になるものであり、施策や制度において体現されるべきものとして、今ではVOYAGE GROUP全体に浸透していると思います。
次回以降では、この経営理念を土台に、社内外の人々を巻き込んだ数々のプロジェクトを紹介し、プロジェクトマネジメントの難しさや面白さをお伝えしていきます。
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