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【第2話】見えない指示、進まないリカバリその日、私の仕事はなくなりました 〜僕の業務システム改善日記〜(1/3 ページ)

今まで体験したこともない業務システムのエラーにケンイチはなすすべがなかった。「もはやジョブスキップしかない!」と思いに駆られたそのとき、意外な助っ人が現れた――。

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 「だーかーらぁ! 原因を調べていつ復旧するのか、その目処を報告しろって言ってるんだよ。分かる?

 システムトラブルの原因が判明していないのに、復旧の目処を報告しろと言われても、正直なところ無理だ。

 「すいません…原因が不明でして…その…何とも…」

 「あのなぁ。じゃあオレは経営陣にどう報告するんだよ。会計システムにトラブルが発生していて、原因不明なのでとりあえず放置していますって電話しろと? 現場のことは現場が真っ先に理解しないと困るんだよ。とにかく30分ぐらいでそっち着くから、何とかしておけ」

 ケンイチが入れた留守電を聞いて、歓迎会が終わったのだろうマサさんから、普段は聞かない口調の電話が入った。もちろん、ケンイチは電話が鳴るまで何もしていなかったのではない。この2時間、似たような事例が過去に発生していたかどうかを調べるため、『システムと仲良くなる運用手順書_2』を何度も検索し、過去メールの重要フォルダをあさり、エラーログに手掛かりになりそうなものが記録されていないかを必死に調べていたのだ。

 開発企画の社員も心配して電話をくれるのだが、今回ばかりは彼らも力にはならない。安定していたシステムでのトラブルだ。誰もこの現象を経験したことない上に、このシステムに詳しい社員はもはやいなかった

 (はぁ…………きっついです。これはさすがに……海を見たい…)

 思い切ってジョブをスキップしてしまえば、後続ジョブを含めて深夜0時までに終わるはず。やってしまいたい。ひと思いにスキップして、楽になりたい。

原因は不明のまま……

 以前ケンイチが犯した失敗は「問題意識もなく再実行してしまった」という顛末にしたのだけれども、今回は「安全を確保するために意図的にスキップした」という話であれば、情状酌量の余地があるのだろうか。期限までにシステムを動かさなければならないと考えたという大義名分はある。いやいや駄目だ、とにかく1人で判断するのは良くない。

 「…あ、マサさん。はい、引き続き調べてみます。これといった原因は…。えぇ。取り込んでいる元のデータを過去分と比較ですか?見た限りでは問題があるようには…。えぇ、原因が分からないので、時間を見てスキップしてみようかと。空のファイルを配置して再実行すれば、何もデータがなかったことになります……はい。用意しておきます」

 これでジョブスキップしたとしても、上司に許可を得たのは確かだと自分を納得させる。よし、空のファイルと差し替える準備しておこう。

 …ドカドカドカドカドカドカッ…ガチャリ。再びマサさんから電話だ。

 「お疲れさん。でどう? 原因は分かったの? 復旧準備は出来てるの?」

 (だから原因は分からないって言ってるっつーの)

 「取り込みをスキップする準備は整ってます」

 「それすると、何に影響があるんだ?」

 (いやー、そこまで知らないよ。このシステム作ったのオレじゃないし…)

 「明日の営業成績の集計と、取引先への送信電文の内容に不整合が出るはずです。多分…」

 「それ以外に影響は無いんだな?それなら明日の朝一で間違いが出る客先に個別で連絡すればいいか。営業部長にはオレから電話するよ。引き続き、栗平は状況を整理して対応を進めてくれ」

 (いや、あれ?多分って言ってるんですけど。スキップしちゃっていいの? いいよね…)

 マサさんの素晴らしい調整力にありがたみを感じつつも、システム復旧作業についての方針決めについては、同じ目線で考えてはくれないこの状況に、ケンイチはやや苛ついていた。先輩が辞めたとき、一緒に辞めていれば良かったな…。

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