ビッグデータでITの新たな価値を生み出していく――日立製作所:2014年 新春インタビュー特集
大規模な組織改変を通じてビッグデータなどの事業に注力する日立製作所。2013年に感じた市場の変化と今後の事業展望とは。同社ITプラットフォーム事業本部 事業統括本部長の橋本崇弘氏に聞く。
――2013年の振り返りをお願いします。
橋本氏 非常に変化が激しい1年でした。日立はこれまでサーバやストレージなどの製品提供を中心に事業を行ってきましたが、今では海外勢をはじめとするクラウドサービス事業者が新たな競合となりつつあります。さらに、2013年には主力であるハイエンドストレージの市場が初めて伸び悩むなど、従来の事業モデルを根底から見直していく必要性を感じました。
こうした市場環境の変化の背景にあるのは「ビッグデータ」の台頭でしょう。現在、企業内のデータだけを分析するのではなく、個人のモバイル端末などが生み出すさまざまなデータも合わせて分析することが注目を集めています。そして、そうした状況に対応した新たなプラットフォームが求められているのです。
そこで当社も、ハイエンドストレージ事業で培ってきたノウハウをビッグデータの世界でさらに生かすための取り組みを強化しています。具体的には、サーバ、ストレージ、ソフトウェアの3つの事業部を統合して2012年に設置した「ITプラットフォーム事業本部」を通じ、垂直統合型プラットフォーム製品やビッグデータ基盤などの事業に注力しています。
――日立のビッグデータ事業における特徴は何でしょうか。
橋本氏 当社は超高速データベースエンジンの「Hitachi Advanced Data Binder プラットフォーム」(※注)(以下、HADB)をはじめ、他社にないユニークな技術を数多く持っています。それらの技術を、いかに顧客にとって価値あるものに形を変えて提供できるかがますます重要になると考えています。
※注:内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:喜連川 東大教授/国立情報学研究所所長)の成果を利用
これまでは企業が多種・多量のデータを分析しようとすると、どうしてもデータウェアハウス(DWH)のような大掛かりなシステムを用意し、相当な時間をかけて取り組む必要がありました。しかし、この方法ではリアルタイムに発生するデータを活用できません。当社はそうしたストリームデータも高速に処理できる技術を多数持っていますので、それらを分かりやすい形でお客さまに提供していきたいと考えています。
その具体的な技術の1つがHADBです。また、2013年に発表した「Hitachi Unified Storage VM all flash」「Hitachi Unified Storage 150 all flash」などのオールフラッシュストレージ製品も、お客さまのデータ活用を支援する重要な要素となるでしょう。
――ビッグデータの高速処理によって、どのような価値が生まれるのでしょうか。
橋本氏 現時点でビッグデータの効果が最も上がっているのは、お客さまがこれまでの手法では見えなかったデータを可視化し、新たな“気付き”を得られるようになったことです。データは可視化するだけでさまざまなことが分かりますし、「このデータを何に生かせるか」という興味もわきます。さらに、可視化したデータを必要に応じて分析すれば、その結果をもとに経営判断を迅速化できるはずです。
かつて、企業がITに寄せる期待の多くは「コスト削減」に関するものでした。しかしビッグデータが脚光を浴びたことで、その潮流も変わりつつあるようです。企業の業務部門にとって、データを即時に活用してビジネスを強化したいニーズは高いはずなので、今後はITによる新たな価値創出にますます注目が集まることでしょう。
――その一方で、企業によっては高度にカスタマイズして導入したシステムのメンテナンスコストがかさみ、ビッグデータをはじめとする新たなIT活用に踏み切れないケースもあるようです。
橋本氏 おっしゃる通り、従来のIT導入では、システムインテグレーションやメンテナンスのためのコストが肥大化することも少なくありませんでした。そうして常に多数のシステムエンジニアが必要な状態になってしまうと、企業の経営にとっても悪影響ですし、新たなIT活用もできなくなってしまう問題がありました。
そこで日立では、お客さまのシステム基盤となる部分をできるだけ共通化・標準化することで、カスタマイズコストやメンテナンスコストを最小限にしたいと考えています。お客さまのやりたいことを全てカスタマイズで実現するのではなく、個別開発が当たり前だった部分も共通のプラットフォームに取り組んで提案していく所存です。
ITプラットフォーム事業本部への組織統合も、そのための取り組みの1つです。プラットフォーム各製品の担当部署があちこちを向いていると、お客さまへの提案に“穴”が開いてしまい、本来なら必要ないところまでお客さまが個別で開発する必要が出てきてしまいます。ITプラットフォーム事業本部では、各製品の方針やノウハウを従来以上に共通化することで、これまで以上にお客さまのニーズに寄り添い、新たなIT活用につながる提案ができると考えています。
――最後に、橋本さんが組織を率いるリーダーとして心掛けていることを教えてください。
橋本氏 1つは、徹底的にお客さま視点で物事を考えることです。これは自ら心掛けるだけでなく、部下に対しても繰り返し伝えています。
日立は「製作所」という名が体を表すようにエンジニアリング中心の会社です。技術によってお客さまに価値を提供できるのは当社の大きな強みですが、技術革新にばかり目がいってしまってお客さま視点が抜けてしまうことがないように、当社の技術がお客さまにとってどのような付加価値に結びつくかを何度も確認するようにしています。
また、ITプラットフォーム事業本部は3つの事業部を統合して生まれた部門ですが、それぞれの製品担当者が別の方向を向いていてはお客さまにとっての価値を実現できません。組織全体が同じ方向を目指すためには誰かが旗振り役にならなければいけませんから、それこそが私の役割だと思っています。
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