「勘と経験頼み」の職人集団から脱却 ソフトバンクホークスがデータ活用で目指すもの:ホークスのビッグデータ活用記(2/2 ページ)
古くからデータ活用が盛んに行われてきたプロ野球だが、テクノロジの進化によって新たな動きが生まれつつある。「KKD(経験、勘、度胸)」からの脱却を目指してデータ活用を進めているソフトバンクホークスに取り組み内容を聞いた。
データをもとに話し合える“真のチーム”を目指して
同球団がデータ活用システムの構築に乗り出したのは2010年のこと。自社でIT部門を持たないホークスでは、日本IBMとシステム開発会社のクロスキャットをパートナーとしてシステム構築を進めていった。
だが、そのプロセスにおいても困難は少なくなかったようだ。「ITベンダーは当然、球団運営に関するノウハウを持っていない。一方、現場スタッフにとっても『どんなシステムがほしいか』など分かるわけがないので、現場とフロント、ITベンダーの3者で情報をキャッチボールしながらシステム構築を進めていった」(三笠氏)
具体的には、データ活用基盤に日本IBMのビジネスインテリジェンス(BI)製品「IBM Cognos BI」を採用し、「χ援隊」(かいえんたい)と名付けたデータ分析/レポート配信システムを構築。スコアラーがPCやiPhone、iPadで入力したデータをリアルタイムで分析してチーム内で共有できる仕組みを整え、2011年に稼働開始にこぎつけた。
システム導入の成果は徐々に表れたという。「従来、球団経営はスタッフ個々人のパフォーマンスに依存する部分が大きかったが、システム化によって共通のデータに基づき判断ができるようになった」と三笠氏は振り返る。また関本氏も「職人たちの『俺はこう思う』という考えをシステムで取りまとめ、そのデータに基づき方針を決められるようになった」と成果を語る。
データ活用をさらに加速 1球ごとの球威も分かる動画分析も
ホークスは今後、2011年から活用してきたχ援隊だけにとどまらず、さらなるデータ活用に向けた取り組みを進めていく考えだ。「χ援隊の構築・運用で得られたノウハウをもとに、さまざまな検討を重ねながらよりよいシステムを作り上げていきたい」と三笠氏は話す。
また2014年に入ってからは、本拠地である「福岡 ヤフオク!ドーム」に球速測定装置を設置。従来からスコアラーが記録していた1球ごとのデータにとどまらず、ピッチングやバッティングの細かい挙動(ボールの回転数、初速や終速、軌道など)を自動でトラッキングする仕組みを用意し始めているという。「動画を解析して自動でデータ化することで、『今日は球に伸びがある』『変化球にキレがある』といったアナログな情報を数値に置き換え、“職人の目”を客観的に持てるようになるだろう」(三笠氏)
「球団のフロントの役割は、現場の仕事を標準化して蓄積し、チーム全体のノウハウとして役立てること。ホークスが世界一を目指す上で、個人の力量だけに依存せずに継続的に成長できる仕組みを作っていきたい」(三笠氏)――ホークスは今後もITとデータの活用を通じ、世界に誇れるチーム作りを目指していく。
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