オリックス・バファローズはいかにファン会員データを“宝の山”に変えたか:球団ビジネス変革の裏側(前編)(2/2 ページ)
シーズン序盤からの快進撃そのままに、ついには2014年のパ・リーグ優勝に迫りつつあるオリックス・バファローズ。チームの成長に足並みをそろえるかのように球団事業も改革を進めて大きな成果を上げている。そこに至る背景を取材した。
会員の行動データを詳細に把握
CRMシステムの導入に合わせて、オリックスはファンクラブ会員の仕組みを刷新。2013年シーズンから新たにポイントプログラムをスタートした。年会費でプレミアムメンバー(10万円)、プラチナ(3万円)、ゴールド(1万円)、レギュラー(3000円)、ジュニア(1000円)と5つのグレードを設け、上位になるほどポイント付与率が高くなったり、優先的に特典サービスなどを受けられるようにしたりした。
会員に対しては旧来のスタンプ手帳から新たな会員カードを発行。そこにはID番号に当たるバーコードとQRコードが記されており、会員は、例えば、Webサイトでチケットを購入する際にIDを入力したり、球場の入り口に設置されているiPadにQRコードをかざしたりすることでポイントを獲得できるようになった。そのほか、グッズや飲食の購入、Webアプリゲームなどでもポイントを得られる。
ポイントプログラムの開始に合わせて、会員のデータベースも整備した。2014年9月現在、会員は約4万人で、男女比は8:2、年齢構成は30代が最も多く、40代、20代、50代と続く。居住地については大阪、兵庫で70%を占めている。
これらの一連の取り組みによってオリックスが目指したのは、会員の「見える化」だ。新システムを1年間運用したところ、結果的に、長年にわたり課題となっていた会員一人一人の行動データを正確に把握できるようになった。そうしたデータを具体的に分析していくつかのことが明らかになった。例えば、ホームゲーム一試合当たりの来場者のうち会員は約20%に過ぎないのに、グッズ売り上げの約40%が会員によるものだというものである。「データによると会員は平均で年間5.5回来場している。つまり、毎回のようにグッズを購入している会員が多数いるということだ」と緒方氏は話す。
それを裏付けるべく、さらにファンクラブ会員データを細かく分析すると、2013年のグッズ、飲食、チケット購入総額平均はゴールドメンバーで約5万円、プラチナは約8万円、プレミアムは約20万円にも上っていた。緒方氏は「よりグレードの高い会員を増やし、グッズなどの収益の拡大を図っていくことが、われわれの取るべき戦略だというのが分析データによって明確になった」と力を込めた。
では、その定めた戦略にのっとって、どのように年間1万人ものファンクラブ会員を増やすことができたのか、さらにはいかにして収益を伸ばしていったのか。その具体的な施策を後編でお伝えする。
変更履歴:球団名の表記および本文の一部内容に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。[2014/9/26 10:40]
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