「科学」と「アナログ」の融合でファンを急増させたオリックス・バファローズ:球団ビジネス変革の裏側(後編)(2/2 ページ)
オリックス・バファローズが運営する公式ファンクラブ「BsCLUB」は、この1年間で1万人以上も会員数を伸ばしている。そのわけとは――。
効果てきめんだったアナログ的手法
こうした取り組みに並行して、既存会員のフォローにも力を注いだ。そのための有効な武器として力を発揮したのが、やはり会員データである。「データをさまざま角度から分析すると、グレード昇格を見込める会員が浮き彫りになってきた。例えば、球場への来場回数とポイント数を組み合わせて分析したところ、ある一定数のポイントを取得しつつ7回以上来場しているレギュラー会員は、ゴールド会員との親和性が高いという傾向が出た。彼らに対してゴールド会員のプログラムを勧めるなどしていった」と緒方氏は説明する。
このように、それぞれの階層に対してアップグレードの見込みがある会員の特徴を洗い出し、電話営業やダイレクトメール(DM)などで直接的にアプローチした。実はこのアナログ的な手法である電話営業も思わぬ効果をもたらした。
「電話での対話は、われわれ球団にとっても、ファンにとっても、意見交換を直接できる良い機会となった。ロイヤリティをさらに高めてもらえるきっかけにも繋がった」(緒方氏)
そのような施策が功を奏し、プレミアムメンバーは上限の100人に達したほか、プラチナは前年比で160%増、ゴールドは同140%増となった。
既存会員へのアプローチは上級会員にとどまらない。ノンアクティブな会員に対しても掘り起こしを行っている。彼らに対してさまざまなキャンペーンなどに関するDMを繰り返し送信。その頻度は時期によっては数日間連続にもなることも少なくないそうである。「DMを効果測定したところ、1本当たりのDM送信で多少なりともアクションを起こす会員はいる。逆に、DMを開封しない会員は何度送っても同じ。従って、少しでもアクティブ会員が増えるのであれば、積極的にDMを送り続けるのが最良だと判断した」と緒方氏は主張する。
ファンの喜びが判断基準
ファンに対するアプローチについて、緒方氏は「ロイヤリティだけでなく、エンゲージメントも高めていくことが重要」だと語る。その一環として、今後はソーシャルメディアの活用にも力を入れていく。そうすることで、ファンとの関係性をより緊密なものにしていきたい考えだ。
また、野球ファン以外の新しい層も取り込むために、「BsGirls」と呼ばれるダンス&ヴォーカルユニットを立ち上げている。一般的に他球団では試合前やイニングの合間に女性のチアリーディングが登場するが、オリックス・バファローズでは「野球応援」という発想を止め、あくまでも音楽ユニットがライブを行い、それをファンが楽しむというスタイルにしている。
そうした取り組みの根底にあるのは、徹底的な顧客視点である。規模の大小かかわらず新たな企画を実行するかどうかの判断基準として、オリックス・バファローズが最も重視しているのは「ファンが喜ぶかどうか」である。その軸がぶれないため、意思決定も素早くできる。それが球団の強みにもなっている。例えば、iBeacon技術を利用して京セラドーム大阪で好きなビール売り子を呼べるサービスというもその1つ。「いろいろな議論もあったが、最終的にファンが喜んでくれるはずだと感じたので試験的導入に踏み切った」と緒方氏は述べる。
今改めて顧客志向が叫ばれる中、チーム、選手、事業部など球団が一丸となってファンに尽くそうとするオリックス・バファローズの姿勢は、スポーツ業界のみならず企業ビジネスにおいても大いに参考となるはずだ。
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