欧州にみるIoT活用とリスク管理への挑戦:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)から生まれるビッグデータを活用したイノベーションが進む一方、プライバシー/個人情報管理、サイバーセキュリティなど、リスク管理上の課題も広がりつつある。厳格なプライバシー保護政策で知られる欧州諸国はどのように対応しているのだろうか。
EUで進むオープンソースの「IoTビッグデータ」分析のイノベーション
2007年1月、欧州連合(EU)は、「第7次欧州研究開発フレームワーク計画(FP7)」を開始した。その一環として、2011年12月からアイルランド国立大学ゴールウェイ校(NUI Galway)がコーディネーター役となり、ギリシャ(アテネインフォメーションテクノロジーおよびSENSAPマイクロシステムズ)、スイス(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)、ドイツ(フラウンホーファー研究機構)、マルタ(AcrossLimits)、オーストラリア(豪州連邦科学産業研究機構)、クロアチア(ザグレブ大学)などのパートナーが参画する、「OpenIoT」という国際協働プロジェクトが行われている。
OpenIoTは、センサ機器が使われている場所に関係なく、センサ・クラウドを介して情報を収集するオープンソースベースのミドルウェアを開発し、クラウド環境上で「≪Sensing as a Service≪」型のセンシングサービスを導入することを目的としている。
センサ・クラウドの多くは、クラウド内におけるデータストリームの統合に注力しているが、人手を介さずにコンピュータが自律的に処理するセマンティック技術の相互交換性が担保されていない。このため、分散する無数のデバイスから収集された「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)のビッグデータ分析の効率化・自動化には限界がある。そこで、データ記述の共通語彙をメタデータとして付与するオントロジーを整理して標準化し、IoTのセマンティック技術の相互交換性を確保しようというのが、このプロジェクトの狙いだ。
2012年5月、パブリッククラウドサービス上に最初のOpenIoTのプロトタイプが実装され、同年5月には完全なオープンソースのフレームワークがリリースされた。その後、2013年5月にリアルタイムのオンデマンド型IoTサービスを生成し、IoTサービス間の相互交換性を実現するOpenIoTミドルウェアがリリースされている。
各成果物は、GutHub上の「OpenIoT FP7 Project」や、YouTube上の「OpenIoT」などで一般に公開されている。健康医療や環境・エネルギー、交通、農業など、成熟化した都市社会を抱える欧州ならではのユースケースシナリオも興味深い。
EUレベルで行われているOpenIoTプロジェクトを産官学連携クラスターに組み込み、ビッグデータ技術の実用化/事業化につなげようとしている国の1つがアイルランドだ。具体的には、前回の記事で取り上げたアイルランド国内の4つ大学の協働による「データアナリティクス研究所INSIGHT」のセマンティックWeb研究グループが、「スマートエンタープライズ」領域の中核プロジェクトとしてOpenIoTに取り組んでいる。
本連載の第2回記事で、米国政府のビッグデータ戦略の有望領域としてIoTを取り上げたが、欧州でもIoT・ビッグデータは重要なものと位置付けられている。従来のクローズドな電子制御システムが主体だったIoTの技術領域に、クラウドを始めとするオープンな汎用技術が入り込んでいる点は欧米とも同じだが、それぞれの国・地域ならではの特徴を生かして、国際標準化に向けたイニシアティブを推進している点は興味深い。
「ビッグデータ利活用と問題解決のいま」バックナンバー
第1回:ビッグデータ利活用の表舞台に立つプライバシーとセキュリティ
第2回:IoTとビッグデータがもたらす社会変革とクラウドセキュリティ
第3回:ソーシャルメディアで加速するビッグデータ利活用とガバナンス課題
第4回:セキュリティ/リスク管理から見た米国のオープンデータ戦略
第5回:新規事業創出で注目されるクラウドストーミング、利点とリスクは何か
第6回:世界や米国にみるセキュリティ人材の育成術と日本の課題
第7回:健康・医療分野におけるビッグデータイノベーションの動向
第8回:研究開発を牽引するクラウドとビッグデータ、リスク管理をどうするか
第9回:米シカゴにみる、市民参加で地域課題の解決を目指すスマートシティの最前線
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