京都市営バスを便利にするIoT、「ハイテクバス到着案内システム」の裏側:Beaconと公衆Wi-Fi網をうまく応用(1/3 ページ)
2020年のオリンピック開催に向け、東京近郊はもちろん国内観光地や地方自治体も大きな商機を見込み、整備を加速させている。その活動の一環として、京都市が市営バスに「新型のバス到着案内システム」導入。その背景を取材した。
京都市営バスが導入した「ハイテクバス到着案内システム」、その背景を取材
2020年のオリンピック・パラリンピック開催を控え、日本の観光地や地自体でも観光客数の増加、そして住民も含めた満足度をIT技術でさらに高める取り組みが進んできている。
今回取材した「京都市営バスの新たなバス到着案内システム」も京都市が進めている施策の1つだ。京都市営バスは、京都市内を中心に運行する京都市交通局が運営する市営の路線バス。ほとんどが均一運賃区間で、普通運賃は大人230円。多くの人が利用する公共交通機関での比較的大規模な事例となる。
あわせて、2015年はBeaconシステムを活用したサービスも本格的な普及期に入りつつあると言われている。以前「普及の第2フェーズに入る「iBeacon」──ACCESSに聞く、導入事例と対策のヒント」でリポートしたように、ほとんどがすでにその機能を利用できるiPhoneを中心とするiOSデバイスの状況をふまえ、これまで導入を前提に検証を進めていた各社の試験導入案件が、いよいよ本格稼働するスキームに入ってきた。
大規模な導入事例が増えれば、Beaconモジュールの製造単価も下がり、アプリやシステム構築など、周辺ビジネスの盛り上がりにも大きな期待が集まることになるはずと、今回はBeacon/M2M分野に関する取材のつもりだった。ただ、もっと広い範囲で、包括的かつユニークな取り組みだった。IoTの好例と感じたこの導入事例を解説していこう。
経緯と課題:設置コストや工数の大きい従来のアナログ方式のシステム
今回の京都市営バスが導入した新システム導入事例には、2つの大きなトピックがある。
まずは、市内を走る「788台のバス車両すべてにBeaconモジュールを搭載」した大規模な事例であること。そして2つめは、現在、京都市内全域で整備されつつある「無料の公衆Wi-Fi網を利用したバス到着案内システムを刷新」したことだ。
Beaconモジュールの使い方もこれまでの事例と違っていた。Beaconシステム導入事例の中心となっている「アプリと連動した来店検知システム」などのO2Oマーケティングの観点と少し異なる。今後のBeacon利用の可能性を広げるという点で注目しておきたい事例だ。
京都市交通局が導入したBeaconシステムは「バスロケ」と呼ぶ、バス停におけるバスの接近案内表示のシステムに使われる。
まずは旧バスロケの仕組みと概要を説明する。バスロケは、現在バスがどのあたりを走っているかの情報を客へ通知するサービスのための基盤だ。バス停の案内板に、ぱたぱたと切り替わるアナログ方式のフリップで「この系統のバスは、いま2つ前のバス停まで近づいています」などの情報を示すもの。基本システムは公益財団法人の京都高度技術研究所(ASTEM)と共同開発し、京都市営バスのほか、関西地方のJR高速バスなどでも運用されている。
どうやって運行情報を取得するか。運転士が行う「次のバス停アナウンス」のボタン操作と連動し、バスがどのバス停へ向かっているかを識別する。その情報が専用無線経由で中央の管理センターへ集約され、管理センターから専用無線で各バス停へ情報を一斉に送る。バス停の案内板は送られてきた情報をもとに、バスの表示位置を変更する。バスが1つ前のバス停を出発すれば、表示内容が「まもなくきます」という表示に変わる。こんな仕組みだ。
この仕組みだけでは「バスが、バス停に到着したかどうか」を識別できない。乗降客がいなければ、止まらずに次のバス停へ向かう。バスがすでに通り過ぎたのに「まもなくきます」と表示されたままでは混乱してしまう。そこで、客がおらずバス停を通り過ぎた場合は「次のバス停アナウンス作業をした」ら、「まもなくきます」の表示を消すようにした。若干の時間差があるのは仕方ないことだった。
アナログなところには味があり、仕組みはよく考えられている。ただ、アナログ式の案内板は金食い虫だったのが大きな課題だった。1基あたりの設置コストは約300万円、設置はせいぜい年間5基ほど。2013年はそれでもがんばって10基を設置したが、それが限界だった。
設置が大変だった理由に、バスの系統ごとに必要な最大9個のモジュールをバス停ごとに個別に組み込み、施工する工数、さらに専用無線や部品を利用していることで、モジュール単価も高額だった。また、アナログ式ゆえ他言語対応には大幅な刷新が必要で、実現は難しかった。「バスロケのシステムそのものを刷新」を前提に、こうした課題の解決を迫られていた。
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