真の「医療×IT」を実現するために、求められる電子カルテシステムとは?:京大病院の“情シス”に聞く(後編)(2/2 ページ)
日本で電子カルテが始まって約15年。政府が掲げた目標ほどには電子カルテシステムは普及していない現状がある。その理由を京大病院の“情シス”、黒田教授に教えてもらった。
「人が作ったデータ」と「機械が作ったデータ」を明示する
このほかにもカルテの電子化による落とし穴はあるという。
紙のカルテは医師が認識したり判断したりした、いわば主観的な情報が中心に書かれたもので、言わば“医師の思考をまとめた情報”だと言える。そのため、別の人がカルテを読んでも、患者の症状や病気を判断した根拠などが伝わりやすいものだったという。
一方、電子カルテの場合、各々の情報がデータとして細切れに保存されるパターンが多い。それゆえに、医師の意図などが分かりづらくなってしまうケースもあり、後でこれを読んだ人が患者の症状を見誤ってしまうことが危惧されているそうだ。
「医師が何を認識し、何を判断材料にして病状を推測したのか。例えば体重ひとつとっても、それが口頭で聞いた話なのか、実際に計測した数値なのか。そういった文脈やデータの出所が分からなくなることでリスクが生まれます。電子化が進むことでこの危険性は高まるでしょう。どれが機械が作った情報で、どれが人間が認識や判断をした情報なのか。簡単に言うと“客観的”なデータなのか“主観的”なデータなのか。そしてそれがどのように関係しているのか。これを明確に分かるようにする必要があります」(黒田さん)
しかし、この危険性を完全に回避できるようなシステム、つまり他人でも医師の意図が分かるような電子カルテは現状では存在しないと黒田さんは言う。「それが2016年にすぐにできるとは思っていません。まずは客観データをちゃんと収集できるシステムを作りたいですが、現状ではお金がいくらあっても足りないでしょうね」
もちろん、電子カルテには大きな可能性もある。患者の症状や状態といった“状況”を完全に把握し、認識できるようになれば、コンピューターが看護師や医師に処置をするべきタイミングで、あるべき情報を提供してくれるようになるかもしれない。「このレベルに達すれば、電子カルテは医療のナビゲーターとしての価値を発揮するわけです」(黒田さん)
新しい医療の形を真剣に考えるタイミング
黒田さんは、このような電子カルテの価値が最大限発揮されるようなシステムを目指している。
「新しいシステムを作るためには、医療関係者が先頭に立って取り組む必要があります。法律なども関わってくるので、とても民間企業だけでなんとかなる規模の話ではありません。今まではシステムを入れることが優先で、使い勝手などを議論する段階ではありませんでしたが、これからは『何かおかしい』と声を上げ、より“自然な”電子化された医療システムのありようを議論のテーブルに乗せることがわれわれ学者の仕事でしょう。
コンピューターが入ることで医療はどう変わるべきか、カルテはどのような役割を与えられ、いつどんなときに誰に情報を渡すべきなのか。それを真剣に考える時期に来ているのです」
エストニアなど、医療ITが発達している欧州の国々では「国民全員にID番号を割り振り、医療システム全体がITで管理されている」(黒田さん)という。多くの処方せんが電子処理され、情報の共有や統合も進んでいるそうだ。日本も近々マイナンバー制度がスタートするが、医療ITもそのタイミングで発展するのか。それとも、世界の流れから取り残されてしまうのか。黒田さんのような“情シス”の動きにかかっているのかもしれない。
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