第3回 「ライブマイグレーション申請書」って何デスカ?:テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」
サーバ仮想化の技術「ライブマイグレーション」を活用する──。ある日本企業は「ライブマイグレーションの実施に、申請書を書いてハンコを回す」が必要で、またある企業は「物理サーバ1台に、仮想マシン台数分の資産シールを張る」のだという……?
「サーバ仮想化」は、昨今のITインフラの統合基盤として欠かせない要素技術です。普及が始まってもうすぐ10年を迎え、OSの一機能として標準搭載されるまでになりました。
では、サーバ仮想化の象徴的なテクノロジーと言えば何でしょう?
多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、やはり「ライブマイグレーション」ではないでしょうか。仮想マシンを止めずに稼働する物理サーバを切り替える技術で、米VMwareが2005年に実装した「vMotion」で一躍有名になった技術です。
仮想マシンにも資産管理シール? ライブマイグレーション申請書!?
現在(2015年)から2年前、つまり仮想化が普及して8年くらいが経った2013年の夏、みなさんの誰もが名前を知っている国内大手企業の情シス会議室で、私は驚くべき言葉を耳にしました。「ライブマイグレーションの実施には、申請書を書いてハンコを回さなければならない」と言うのです。
詳しく聞くと、各仮想マシンは物理サーバとセットで帳簿管理されており、その帳簿に修正が入るので承認がいるとのこと。驚きを隠せず知人に聞いたところ、業種を問わず他の国内企業でもまれにあるのだそうです。
(もちろん会社名やシステム内容などはお互い伏せて)その知人といろいろと話していると、1つの共通項が見つかりました。ライブマイグレーションに承認フローを強いる企業は、どこも仮想化を導入する一番の目的が「コスト削減」であったことです。
昨今のパフォーマンスの高い物理サーバをそのまま使うとリソースが余るために、サーバ仮想化を用いて分割する。そこで切り出した仮想マシンは、小分けにされた“サーバマシン”ととらえていました。サーバであるがゆえ、物理サーバと同じく帳簿管理が必要となるという考え方です。
その知人は「仮想マシンにも資産管理シールを張ってくれ」と指示され、困りながらも1台の物理サーバに何枚ものシールを張った現場担当者のグチを聞いたこともあるそうです……。物理サーバにシールを張ってしまっているとなると、確かにライブマイグレーションの際にも申請が必要になるでしょう。
笑い話に聞こえるかもしれません。でも、自社を思い出してみてください。資産管理シールは極端な例として、サーバ仮想化の一番の目的は「コスト削減」であり、仮想マシンのことを“(仮想的な)サーバーマシン”ととらえていないでしょうか?
実はこれ、日本独特かもしれません。
最後に1つ。お客様の資料でたまに目にしますが、「仮想サーバ」という言葉は避けた方がよいと思います。物理サーバのことか、仮想マシンのことか、誤解を招いてしまうためです。
小川大地(おがわ・だいち)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバー製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバー、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション
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