「われわれはバージョンアップ部隊ではない」 旭硝子“攻めの情シス”その手法:基盤システムをクラウド化、AWSで変革(1/3 ページ)
ガラス大手の旭硝子が、メインフレーム/オンプレミスベースの業務基盤をAWSでクラウド化した。「オンプレミスしか考えていなかった」と思い込んでいた同社が「クラウドにする」「バージョンアップ部隊ではなく、われわれこそが業務改革の担い手だ」と考えを一転した転機は何だったのか。
「ずっとオンプレでやってきた古いタイプの企業、その情シスに、クラウドは必要か。実は、そもそもウチはクラウドに向いていないのではと思っていました」
世界有数のガラスメーカー、旭硝子(AGC旭硝子)。創立100年以上(1907年創立)、建築材料や自動車向けガラスを中心に、電子部材、フッ素化学製品などの製造、販売を行う。拠点は日本、アジア、北米、欧州と広域に渡り、クルマのガラスの大半は同社製。近年はドイツのサッカースタジアム「Allianz Arena」の外壁フィルム、サッカーワールドカップ2014ブラジル大会の「プレイヤーガラスルーフベンチ」、高級クルーズトレイン「ななつ星in九州(のガラス窓)」などにも同社製品が使われている。
どちらかというと古いタイプの組織体質だったという同社。企業ITシステムもメインフレームで組み、5年おきに発生するハードウェア刷新も「オンプレミスしか考えていなかった」。
そう思い込んでいた同社が、2015年以降に構築するすべての基幹システムの構築先を「クラウドにする」と考えを一転し、アマゾンデータサービスジャパンのクラウド基盤「AWS(Amazon Web Services)」を第1候補に構築していくと決めた。なぜクラウドか、なぜAWSか。“旭硝子クラウドマイグレーションプロジェクト”の経緯と事情を聞いた。
経緯と課題:オンプレ計画からクラウド化へ方針転換
メインフレームで稼働している、最後の大規模基幹システムの保守切れ日が近づいていた。「また、手間がかかるハードウェアの刷新業務に奔走するのか」。旭硝子で日本/アジア圏のITシステム管理を統括する、情報システムセンター グローバルITグループ主席の浅沼勉氏は憂うつだった。
同社で稼働する複数のオンプレミスシステムは、それぞれほぼ5年おきにハードウェアの更新とその作業が発生する。これまでオンプレミスで自社データセンターとともに運用していた経緯から、「そもそもうちの組織の体質から、クラウドに向いていない」と思い込んでいた。クラウドはそんな基幹システムの要求スペックを満たせるのか、法律的観点、セキュリティ的観点ではどうか。業務の根幹をなすシステムだけに、失敗はできない。使いこなせるか不安もある。クラウド化は大冒険。「かえって高くなるかもしれませんよ」、SIからこんなことも言われた。
ただ、オンプレシステムもコストダウンには基盤の共通化などが必須であり、そうするとシステム更新の柔軟性が損なわれる恐れもある。会社に望まれているBCP(事業継続性)対策も、データセンターを自社で構えれば拠点ごとに2倍、3倍のコストが発生し、テープバックアップもBCP観点では対策が十分でない。最後に「5年後も10年後も同じことやるのか……。いつもその作業に追われている」こんなネガティブな気持ちが心のどこかにあるのも否めなかった。
旭硝子は、グローバルで数多くのパートナーとともに事業を展開する企業。もっと広く、ポジティブに考えたい。パートナーや関係各社にもグループのポリシーを一緒に提供する計画もある。それにはポリシーの共通化を実現できる基盤とそのプロセスをセットで提供できなければ意味がない。未来を見据えると、やはりオンプレでは難しい。
「われわれはバージョンアップ&保守部隊ではなく、業務改革の担い手である」(旭硝子の浅沼氏)。大前提の「コスト削減」、この解が見つかれば、クラウドへ行くべき理由を示せる。2014年3月、クラウドでの刷新計画へ舵を切る決断ができた。
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