欧州にみる個人データ保護とビッグデータ利活用のバランス:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(3/3 ページ)
欧州では「EU個人データ保護規則」の制定と本格施行に向けた取り組みが進展している。プライバシー/セキュリティの管理と、ビッグデータ利活用を通じたイノベーションとのバランスをどう図ろうとしているのだろうか。
個人データ保護改革をイノベーション戦略のドライバーと捉えるEU
他方で研究開発を推進する戦略の点からみると、欧州連合(EU)は2007年〜2013年に実施した「第7次欧州研究開発フレームワーク計画(FP7)」を受けて、2014年〜2020年を対象期間とする「ホライズン2020」を実施している。ホライズン2020は、研究の成果をイノベーションや経済成長、雇用につなげることを目的としており、(1)卓越した科学、(2)産業界のリーダーシップ確保、(3)社会的課題への取り組み――を優先事項に置いているのが特徴だ。
ホライズン2020における社会的課題への取り組みの一つとして、2015年2月にスタートしたプロジェクトが「ビッグデータ・ヨーロッパ」である。
このプロジェクトは、ビッグデータの観点から社会的課題の解決に挑む科学実務家に必要なICTインフラストラクチャの要求事項を収集し、その要件を満たす基盤アーキテクチャを設計・展開して、現行のワークフローへの影響を最小化すると共に、最先端を行くEUの研究・科学技術開発力を生かす機会を最大化することを目的としている。また、ビッグデータによる社会的課題解決の対象領域として「健康医療」「食品・農業」「エネルギー」「交通」「気候」「社会科学」「セキュリティ」の7つを挙げている。
ビッグデータの研究開発成果を事業化して、具体的なビジネスモデルや雇用につなげるために避けて通れないのが、前述の個人データ保護対策の課題だ。これに関して欧州委員会は、2015年4月に公表したファクトシート「EUデータ保護改革とビッグデータ」の中で、下記のような項目を示した。世界で最も厳格なデータ保護水準を維持することで信頼を醸成し、消費者にアピールすることよって、EU企業の競争力強化を図るのが狙いだと力説している。
- より高い信頼
- スタートアップ企業の市場アクセスのしやすさ
- 透明性の強化
- 共通ルールによる活動
- データ保護 バイ デザイン
現在、EU域内では、ビッグデータに限らず、IoT、モバイルヘルス、自動運転車、ドローンなど、個別の新技術領域における個人データ保護に関する議論が同時並行的に進んでいる。欧州で事業を展開する日本企業は、EU全域・加盟各国のマクロ的な視点だけでなく、個々の産業界、地域コミュニティといったミクロの視点からも、制度的な仕組みづくりの動向を注視し、日本国内とのハーモナイゼーションを検討していく必要があろう。
次回は、欧州のビッグデータを活用した社会的課題解決の領域として注目を集めるモバイルヘルスを取り上げる。
著者者紹介:笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
Twitter:https://twitter.com/esasahara
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/esasahara
Facebook: https://www.facebook.com/esasahara
日本クラウドセキュリティアライアンス ビッグデータユーザーワーキンググループ:
http://www.cloudsecurityalliance.jp/bigdata_wg.html
関連記事
- IoT×ビッグデータの基盤とセキュリティの仕組み
ビッグデータとIoTの融合を担うけん引役は、デバイスや分析アプリだけではない。これを支えるクラウドや基盤の役割や階層型セキュリティ対策について解説する。 - IoT標準化にみるビッグデータ連携と階層型のセキュリティとは?
2015年1月に日本情報処理学会がビッグデータとIoT(モノのインターネット)の標準化活動を開始した。一方、米国ではどのような動きが進んでいるのだろうか。 - 米国FTCにみるビッグデータのルールづくりと課題とは?
日本のビッグデータ論議でよく引き合いに出されるのが米国の行政機関の連邦取引委員会(FTC)だ。一方で技術標準化を推進するNISTとは、ビッグデータに関するルールづくりにどんな違いがあるのだろうか。 - 米国で進むビッグデータの相互運用性の標準化とセキュリティ
2014年5月にホワイトハウスがビッグデータ報告書を公表して早一年が経ち、米国ではビッグデータに関わるイノベーションと同時に標準化の活動も急ピッチで進んでいる。今回は最前線の動向をお伝えしよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.