シルバーウィークに感じたセキュリティの“素朴な疑問”:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)
仕事でセキュリティに携わっていると、たまの休みにはのんびりしたいもの。しかしシルバーウィークは筆者にセキュリティの疑問を抱かせる機会になってしまった。そのエピソードを紹介しよう。
スーパー銭湯にたくさんの……
さて、父親が温泉に行きたいというので、実家の近くにできたスーパー銭湯に行ってみた。筆者は滅多に行かないので、スーパー銭湯の“システム”を理解するのにやや手間取った。手続きして脱衣室に入ると――ここでもびっくりしたのだ。なんと、裸になる場所に監視カメラが少なくとも20台近く設置されていたのだ。
「たぶん死角はないだろう」と思われるほど、多数のカメラが天井からぶら下がっている。しかも来館者に告知もされていないようだ(見逃した可能性もあるが)。ふと、「商店街の防犯カメラに映った個人の映像も個人情報です」と話された経済産業省の方の顔が頭をよぎった。
さっそくその状況について受付の担当者に聞いたが、パート従業員だから分からないという。その後に調べてみると、どうやらカメラの設置台数は男性の脱衣所の方が多く、女性側の脱衣所に設置されているところもあるという。時間や日によって男女の風呂を入れ替えているところでは設置方法を変えることもできないだろう。
筆者の専門はセキュリティであるものの、それは「情報セキュリティ」の分野であり、こうした監視カメラの実態が全国にあることは知らなかった……。「現場100回」を実践しているが、「専門外」と言い訳を思い浮かべながら、反省した瞬間でもあった。
銭湯の監視カメラについての疑問は様々なところで話題になっているものの、誰も「公式見解」を出していない。筆者も折をみて弁護士や警察の知人に聞いてみたいと思う。中には「合法」という意見もあるが、筆者としてはどう考えても納得がいかない。合法なら女性側にも多数のカメラが設置されているはず。「男性なら合法」「女性なら非合法」というのも全くおかしな議論である。
もっと言えば、「その映像を記録した媒体(DVDなど)をどのように閲覧し、どう廃棄するのか」「記録できない場合なら、その目的はなにか」と疑問が浮かんでくる。カメラがあることで盗みをさせないという心理的な効果は期待できても、犯行を防げないなら実質的に意味がない。
証拠のために記録するなら、その映像データの明確な廃棄ルートやコピー不可の技術的な対応などをぜひ知りたいものである。特に女性の場合なら、どう対応するつもりなのだろうか。男性なら気にする必要がないから許されるといった感覚なのだろうか。盗難を防ぐための方法は監視カメラに限らないだろう。
せっかくの休暇なのに、筆者はこんなことばかりを考えてしまった。
萩原栄幸
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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