IBM「Watson」が、あなただけの“ソムリエ”になる(2/2 ページ)
医療や金融など、さまざまなビジネス分野で活躍しているIBMの認知型テクノロジー「Watson」。APIを公開することで、今後は多くの人にWatsonを使ったアプリを開発してもらう狙いがある。IBMがその先に見ているのは、ビジネスに「コグニティブ」が適用されるのが“当たり前”となる世界のようだ。
スマートフォンが一流ホテルのエージェントに早変わり――「GoMoment」
GoMomentは宿泊施設のサービスについて相談に乗ってくれるエージェントアプリだ。「朝ご飯は何時?」「追加のタオルって頼める?」「スマホの充電器って借りれる?」――アプリ内のエージェント“Ivy”にこんな質問を投げかければ、すぐに答えが返ってくる。シャトルバスの予約なども数秒でできるという。
また、会話の内容からユーザーが対応に満足しているかどうかという点も評価。満足度のデータからさらによりよいサービスを提供するように学習していく。既にシェラトンホテルやヒルトンホテルなど、著名なホテルで導入されているそうだ。
「GoMomentを使えば、90%の問い合わせは3分以内で対応できます。95%の宿泊客のリクエストはさばけるので、従業員は別の業務に時間を使えるようになるでしょう。IvyとWatsonの力で宿泊客の満足度が高まれば、よりホテルにとって多くの利益を生むことになるはずです」(GoMoment CEO ラズ・シン氏)
SNSの履歴から、あなたの好みが丸裸に?――「StatSocial」
Watsonの手に掛かれば、顧客の好みや性格といった、“マーケターなら、のどから手が出るほど欲しい情報”を生かしたアプリの開発も容易になる。ビッグデータが普及した今、顧客に合わせた「1to1マーケティング」の施策を目にする機会が増えたが、「StatSocial」はその風潮を加速させるかもしれない。このアプリは60以上のソーシャルメディアを使い、テキストや購買履歴などから人の好みや性格などを分析。その傾向をプロファイルとして小売店などに蓄積させる。
Watsonの力を使うことで個人のニーズや価値観といったレベルの分析まで可能となるため、一歩進んだ施策を打つことが可能になる。例えば「冒険心が強い」と分析された人には、DMの文言を受動的な言葉でなく、能動的な言葉(チャレンジしよう、など)といった言葉に変えることで、開封率が上がるという。
「例えば、博愛主義者という性格が分かっていれば、売り上げの5%を自然保護団体に寄付するといったアプローチも可能となります。位置情報やウェアラブルデバイスを使えばIoTの切り口でもさまざまなマーケティングが可能になるでしょう。われわれは6億5000万人分以上のプロファイルを蓄積しており、必ず顧客のパーソナリティーを把握できるようになります」(StatSocial シニア・バイスプレジデント ロブ・フロイド氏)
広がるパートナーと「コグニティブ・ビジネス」
「今までWatsonは、医療、法律、金融、石油採掘など専門家と並ぶ知識で複雑な問題を解決してきたが、今後は皆さんに新世代のコグニティブアプリを作ってもらいたい」
IBM ワトソン事業部のシニア・バイスプレジデント、マイク・ローディン氏は今後のWatsonの展開について、イベントの基調講演でこのように話した。30以上のAPIを公開しており、現在8万人以上の開発者がアプリを作っているという。「既存アプリの価値を高めながら、2016年にはAPIの数を2倍にする。研究者の方で新たな機能も随時追加していく予定だ」(ローディン氏)
Watsonはさまざまなパートナーと提携を組み、エコシステムがどんどん広がっている。100個以上のアプリケーションが出ており、今後もさらに増えていくだろう。IBMは過去に企業の基幹業務にインターネット技術を導入してプロセスの再構築を行うという「e-business(1997年)」、“スマート”な企業や社会をテクノロジーで実現させるという「Smarter Planet(2008年)」など、世界が進むべき道を示すビジョンを提唱してきた。
今回のイベントでローディン氏は、さらに1つ進んだ新ビジョン「Cognitive Business」を提唱した。これはIBMの認知テクノロジーがビジネスに浸透した先の世界だ。従来、活用が難しかった非構造化データやダークデータを、人工知能と機械学習でビジネスに生かせる形に変え、いかにデータに基づいた意思決定を導き出せるか――。これが今後の企業の差別化の決め手となるとローディン氏は語った。
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