ブロックチェーンが抱える課題と可能性とは? IBMフェローに聞く:IBM InterConnect 2016 Report
金融取引の仕組みを大きく変えるとして注目される「ブロックチェーン」に米IBMも本格進出を始めた。同社における取り組みやその狙いとは何か。
金融を中心にITを活用した新サービス実現への取り組みが広がるFinTech分野で、その中心的な仕組みを果たすと期待される「ブロックチェーン」への注目が急速に高まっている。IBMは2月にブロックチェーンにおける施策を発表し、日本取引所グループ(JPX)と共同で実証実験を始めるなど本格的に乗り出した。その狙いやブロックチェーンの将来像についてブロックチェーン担当バイスプレジデント、フェローのジェリー・クオモ氏に聞いた。
分散型台帳技術とも訳されるブロックチェーンは、元々は仮想通貨「ビットコイン」の取引台帳になる技術として登場。行為の記録データ(ブロック)を分散型ネットワークの参加者が共有・管理する(チェーン)ことによって、改ざんなど不正を排除する仕組みだ。特に金融取引では、取引相手の信用を金融機関が保証する現在の仕組みよりも低コストに安全な仕組みを実現するとして注目され、金融関連やIT関連を中心に企業が続々と参画を表明し始めている。
クオモ氏は、2016年の早々にブロックチェーン担当に就任。それ以前は28年間にわたってIBMのリサーチ部門フェローやWebSphere事業で技術をリードする要職を務め、「トランザクション、モバイル、クラウドはほぼ全てをやってきましたよ」と自己紹介してくれた。
ブロックチェーンでの主な取り組みとしてIBMは、2月16日に以下の内容を発表した。
- Linux Foundationのオープンソースプロジェクト「Hyperledger」に、ブロックチェーンに関する4万4000行のコードを寄贈
- JPXとブロックチェーンの実証実験を実施
- ブロックチェーンのアプリケーションの設計と開発を支援する「Bluemix Garage」(IBMがスタートアップ企業を支援する施策)を東京など世界4都市に開設
- PaaSサービスBluemixで開発者向けにブロックチェーンのサンドボックスを提供
クオモ氏によると、IBMがHyperledgerに寄贈したコードは約8カ月で開発した。「当初は金融のものとしてコンセプト実証を進めましたが、そこからブロックチェーンが金融以外の幅広いビジネスシーンに適用できる可能性を感じました。開発ではエンドユーザーのソリューションを想定しており、技術先行ではありません」
金融以外の応用としては運輸や物流、サプライチェーン、官公庁などが考えられるという。ただ、現状ではフィンランドの港湾施設においてコンテナのロケーションや積載物といった情報の信頼をブロックチェーンの仕組みで保証する実証が行われた程度しかないとのことだ。
IBMのブロックチェーン開発では「パーミッションブロックチェーン」という概念を導入している。クオモ氏によれば、この概念では分散型ネットワークへ参加したい場合に、身元の真正性を証明して既存参加者から承認を得る。こうすることで匿名性を排除した信頼性の高い分散型ネットワークを実現し、プライバシーや情報などの機密性、コンプライアンスなどが問われる領域でのブロックチェーンの適用を可能にしていくという。
一方でブロックチェーン普及には、導入する側の意識の醸成や対応にまだ当面の時間を要することが影響するだろうと、クオモ氏はみている。ブロックチェーンは、その仕組みが有効に機能すれば取引処理の高速化や中間処理に伴うコスト、リスクの低減化といった多くのメリットをもたらす。
ブロックチェーンを取り巻く現状に対しクオモ氏は、「ブロックチェーンはあくまでビジネスとしての考え方であり、その導入や利用は戦略的であるべきです。テクノロジーとしてとらえてしまうと失敗しかねません」と警鐘も鳴らしている。
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