体温計のような手軽さで生活習慣病を早期発見 富士通研究所が呼気センサーデバイス開発
体温計を使うような手軽さで生活習慣病の早期発見が可能になる――。富士通研究所は、息に含まれる成分を素早く測定できる呼気センサーデバイスの開発に成功した。
富士通研究所は4月18日、息に含まれる成分の中で、狙った成分だけを素早く測定できる呼気センサーデバイスの開発に成功したと発表した。
このセンサーデバイスは、呼気に含まれる生活習慣病との相関が示唆されているアンモニアなど、特定のガス成分だけを抽出して、短時間で濃度を計測できる携帯型のもの。呼気には、生体活動や病気と密接に関わりのあるごく低濃度のガスが含まれており、呼気中のアンモニアは肝臓の代謝や、胃がんの危険因子であるピロリ菌感染との相関があるといわれている。
今回、臭化第一銅膜がアンモニアを吸着する性質を応用し、他のガスと約2500倍の感度差で測定することに成功。また、肺がんマーカー物質の候補とされているノナナールを選択的に検出する実験にも世界で初めて成功したという。
息の成分の分析方法は、ガスクロマトグラフィに代表される大掛かりな分析装置を用いるものと、多数のガスセンサーを並べた電子の鼻で息の応答パターンの違いを解析する2種類がある。いずれも、コスト面や解析時間、特定のガスと他のガスとの区別などに問題があった。
今回開発された技術では、P型半導体である臭化第一銅の、銅イオンとアンモニア分子が可逆的に結合する性質を利用し、呼気センサー用に臭化第一銅の組成や膜厚を最適化した。その結果、呼気に多く含まれるガスの1つであるアセトンに対して、2500倍の感度差で、10ppbからアンモニアだけを区別した計測が可能となった。
富士通研究所では、開発したセンサーデバイスを組み込んで携帯型呼気ガスセンサーを試作し、従業員128人の呼気によるテストを実施した。その結果、従来の小型ガスセンサーと比較して、感度および他の生体ガスと区別する能力である選択比がおよそ100倍向上した。これにより、採血などをすることなく、生活習慣による息の成分の変動を継続的に調べることが可能になる。
今後は、検出できるガスの種類を増やし、スマートデバイスやウェアラブルデバイスにセンサーを搭載して、体温計のような手軽さで呼気中のガス成分を分析できるようにしていく計画。また、医療機関との共同研究を通じて生理学や医学面の効果を実証し、2018年中の実用化を目指す。
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